風の息

『風の息』の概要

松本清張が手掛けた長編推理小説『風の息』は、日本の戦後の混乱を映し出す作品で、1952年に発生したもく星号墜落事故を題材としています。この事故は、連合国のアメリカ空軍により全ての航空が管制されていた時代に起きたもので、松本清張はその歴史的背景を織り交ぜながら緻密な推理を展開しています。1972年から1973年にかけて『赤旗』に連載され、1974年に朝日新聞社から出版されました。また、1982年にはテレビドラマ化もされ、多くの人々に感動を与えました。

あらすじ

物語は1965年から始まります。当時古書店を営んでいた中浜宗介の店に、一人の中年女性が訪れます。彼女は1945年に墜落したもく星号の関連書籍を売却し、宗介に語りかけます。その後、古本屋の常連客である新聞社の論説委員・伊東豊が顔を出し、共に事故について考察を始めます。大学院生の小枝欣一は、同人の俳句会で偶然見つけたダイヤモンドのブローチがもく星号の女性乗客・相善八重子の遺品ではないかと推測し、二人は興味を持ち始めました。

八重子の身元を追う中で、宗介と伊東は、彼女がどのような人生を送ってきたのかを解明したいと考えるようになります。しかし、彼らの調査は事件を追ううちに、次第に複雑な真相へと導かれていきます。二人は、八重子の家族や当時の航空関係者に接触しながら、消えた証拠と同様に、失われた真実を追い求めます。

物語は、墜落の原因に迫る中で、アメリカ空軍と日本の航空当局との間に存在した複雑な関係を描写します。アメリカ側が事故の真相を隠蔽しようとしていたのではないかという疑念が浮上し、調査委員会の過去の記録や証言に対する疑惑も生まれます。物語が進むにつれ、事故調査報告書の矛盾や、航空機との接触による事故の原因が浮かび上がってきます。

登場人物

• - 中浜宗介: 阿佐ヶ谷で古書店「蒼古窟」を営む主人公。
• - 伊東豊: 新聞社の論説委員で、宗介の友人。
• - 小枝欣一: 大学院生、地質学を学んでいる。
• - 相善八重子: もく星号の唯一の女性乗客で、謎に包まれた人物。
• - 服部道夫: 科学雑誌「科学の日本」の元編集長で、事件を調べていた人物。

執筆背景

物語の舞台となった1952年は、日本の航空業界が混乱していた時代であり、著者はこの事故を契機として、航空機の安全性が果たす社会的な役割についても考察しています。作品の中で取り上げられる事故調査の過程は、実際の事件に基づくもので、フィクションを通じて現実社会への鋭い洞察をもたらします。

『風の息』は、推理小説として単にエンターテインメントを提供するだけでなく、戦後の日本が抱える課題やアメリカとの関係性についても問いかける、深いテーマを持った作品です。

もう一度検索