風紋 (松本清張)

小説『風紋』の概要

松本清張による長編小説『風紋』は、食品メーカーを舞台にしたドラマとサスペンスが織り交ぜられた作品です。1967年から1968年まで『現代』誌に連載され、1978年に出版されました。この小説は、企業の信頼性や倫理的な問題を考察しながら進行します。

あらすじ

物語の主人公は、今津章一という若い社員です。彼は日本橋にある食品メーカー、東方食品に勤めています。今津は社史編纂を任され、経営陣との接点が増えます。社長の杠忠造や専務の島田、大山常務など、会社の中心人物との関わりを通じて、彼は企業の内部事情に触れることとなります。

その頃、東方食品の主力商品であるサプリメント「キャメラミン」に、宣伝で盛り上げられている効果成分が含まれないという噂が立ちます。また、有害とされる化学成分が含まれている可能性が浮上しました。この知らせは、今津の心に疑念を抱かせます。この危機に対処するため、宣伝部長の工藤は影響力のある著名人を広告に起用し、商品を庇おうとしますが、今津は企業の基盤が脆弱であることに気づきます。

広告キャンペーンの効果も虚しく、やがて、不穏な動きが社内を襲います。工藤の無断欠勤や退社辞令が続き、キャメラミンの真実が明らかになるにつれ、東方食品の信頼は失墜し、事業縮小に追い込まれます。今津は自身の職業を再考し、編集者として新たな道を歩む決意をします。

登場人物

• - 今津章一: 本作の主人公で、東方食品で社史編集を担当。
• - 浅野忠: 今津の上司で社史編纂室長。考古学に情熱を注ぐ。
• - 小太郎: 神楽坂の若い芸者で、今津と親しくなる。
• - 杠忠造: 東方食品の創業社長。
• - 工藤稔: 宣伝部長で、業界での実力者。

社会的背景と影響

清張はこの作品を通じて、企業の不透明なビジネス慣行や消費者への影響を描写しています。小説の中で扱われる健康食品の危険性については、実際の社会問題も反映されています。特に、作品の連載開始前に発生した医薬品の問題は、その背景に影響を与えており、読者に警鐘を鳴らす要素として機能しています。

また、作品内の人物たちのモデルには、清張本人の実体験や周囲の人々が反映されており、彼の人間観察や社会への批判が色濃く表れています。特に、工藤のキャラクターは、厳しいビジネスの世界での戦略思考を示し、清張自身の考察が生かされています。

結論

『風紋』は、松本清張ならではの社会的視点とミステリー要素が融合した作品です。信頼と裏切り、倫理とビジネスのジレンマを描いたこの物語は、現代の私たちにも多くの問いを投げかけています。食品業界の実態や消費者への影響を通じて、清張は深い洞察を提供しています。

もう一度検索