飛鳥京跡

飛鳥京跡：古代日本の政治と文化の中心地

飛鳥京跡は、奈良県高市郡明日香村に位置する、飛鳥時代（6世紀末～7世紀後半）の広大な都市遺跡です。かつて大和朝廷の中心地として栄えた飛鳥を構成する遺跡群の総称であり、歴代の天皇の宮殿や官衙、豪族の邸宅、寺院、工房、さらには広場や道路といった都市基盤施設など、多様な遺構が確認されています。

飛鳥宮跡：変遷する古代の宮殿

飛鳥京跡の中核をなすのが飛鳥宮跡です。これは、複数の天皇が宮を置いたり、飛鳥市内を遷宮したりした結果、周辺施設と共に拡大していった、いわば「成長型」の宮都でした。後の藤原京のように、最初から計画的に建設された固定的な宮都とは異なり、時代の変化に応じて柔軟に変化していった様子がうかがえます。

発掘調査は1959年から開始され、現在も継続中です。調査の結果、異なる時代の遺構が重層的に存在することが判明しており、大きくI期～III期に分類されています。それぞれの時期と『日本書紀』などの文献史料を照合することで、I期は飛鳥岡本宮（630～636年）、II期は飛鳥板蓋宮（643～645年、655年）、III期は後飛鳥岡本宮（656～660年）と飛鳥浄御原宮（672～694年）の遺構であると考えられています。中でも飛鳥浄御原宮は、構造が比較的よく判明しているため、当時の宮殿の様式を知る上で貴重な資料となっています。

特に、飛鳥宮跡最上層の遺構である後期岡本宮跡は、内郭と外郭から構成される大規模な施設です。内郭は東西152～158メートル、南北197メートルに及び、南北2区画に分かれています。多くの建物跡や井戸などが発見されており、当時の人々の生活を垣間見ることができます。外郭にも掘立柱建物や塀、石組溝などが確認され、堅牢な防御施設が整備されていたことがわかります。

飛鳥浄御原宮跡は、後期岡本宮跡の南東に位置し、「エビノコ郭」と呼ばれる区域を含みます。この区域からは、29.2×15.3メートルという大型の掘立柱建物「エビノコ大殿」が発見され、後世の大極殿の原型ではないかという説もあります。周辺からは墨書木簡も出土しており、飛鳥浄御原宮の築造時期や関係者など、様々な情報を提供しています。

その他の重要な遺跡群

飛鳥京跡には、宮殿以外にも多くの重要な遺跡が点在しています。

飛鳥京跡苑池: 宮殿の北西に隣接する庭園遺構。外国使節の歓迎などに使われたと推測されており、日本最古級の宮廷庭園と考えられています。近年、新たな遺構や出土品が発見され、その規模や性格がより詳細に明らかになりつつあります。湧水施設の存在も確認され、苑池の造営と湧水との関連性が注目されています。
飛鳥池工房遺跡: 天武朝の大規模な官営工房跡。富本銭の鋳造が行われていたことが確認されており、当時の貨幣経済を知る上で重要な遺跡です。
酒船石遺跡: 謎めいた石造物として知られていましたが、近年、湧水施設と水辺祭祀の遺構であることが判明しました。丘陵全体が聖域として利用されていた可能性が示唆されています。
川原寺跡: 川原寺という寺院の跡。瓦や金属工房の遺構が確認され、寺院の運営や維持管理について貴重な情報を提供しています。

飛鳥京跡の意義

飛鳥京跡は、単なる遺跡群ではなく、飛鳥時代の政治、経済、文化、宗教など、様々な側面を反映した貴重な歴史遺産です。これらの遺跡群の発掘調査を通して、飛鳥時代の社会構造や生活、さらには日本国家形成の過程について、新たな知見が得られ続けています。今後の調査・研究によって、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

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