掘立柱建物

掘立柱建物：日本の伝統建築を支えた技法

概要

掘立柱建物とは、地面に柱を直接立てる建築様式です。礎石などの基礎を用いず、柱を地面に立てるシンプルな構造が特徴で、土間もしくは数cm～1m程度の床を持つ建物が一般的でした。柱の本数によって建物規模は異なり、屋根は側柱によって支えられます。高床式と平屋建ての2種類に大別され、18世紀頃までは日本の民家の主流でした。近世後期以降は、礎石を用いた建物や近代的な建築材料の普及により廃れていきましたが、現代でも簡易な建物では稀に見られます。考古学では、柱穴の規則的な配列として発見されます。

歴史

縄文時代

縄文時代前期には既に掘立柱建物が存在し、三内丸山遺跡（青森県）や池内遺跡（秋田県）などの拠点集落で中心的な建物として用いられていました。特に三内丸山遺跡の巨大な六本柱建物は有名で、その精巧な設計は、縄文時代に高度な建築技術が存在したことを示唆しています。中期中葉の西田遺跡（岩手県）では、環状集落の中心に掘立柱建物が配置され、殯（もがり）施設の可能性も示唆されています。神奈川県横浜市では、小丸遺跡での発掘調査が、全国で初めて縄文時代の掘立柱建物を確認した事例として知られています。

弥生・古墳時代

弥生時代も、拠点集落の中心的な建物として掘立柱建物が用いられました。一般集落の住居は竪穴建物が主流でしたが、弥生時代の戦争や稲作農耕の拡大に伴い、掘立柱建物には軍事的性格を持つものや倉庫としての利用が増加したと考えられます。唐古・鍵遺跡（奈良県）の出土土器には多層楼閣が描かれており、当時、高度な建築技術が用いられていた可能性を示しています。吉野ヶ里[[遺跡]]（佐賀県）の掘立柱建物は、物見櫓として復元されています。古墳時代には、豪族の威容を示す建物として掘立柱建物が積極的に利用され、群馬県高崎市の三ツ寺遺跡や北谷遺跡などがその例です。埼玉古墳群から出土した家形埴輪は、上屋構造を推定する上で重要な手がかりとなっています。

古代

飛鳥時代以降も、一般集落では竪穴建物が主流でしたが、宮殿や官衙などの建築には掘立柱建物が用いられるようになりました。瓦葺きの礎石建物は寺院や国衙の中心的な建物に用いられましたが、住居建築では掘立柱建物が主流でした。平城京跡では、宮城や大極殿などの主要な建物は礎石建物でしたが、多くの貴族の邸宅は掘立柱建物でした。中国や朝鮮半島では早くから礎石建物が普及していましたが、日本では自然災害の多さと木材資源の豊かさから、掘立柱建物が長く使われ続けました。伊勢神宮の正殿や大神神社の大嘗祭正殿は、現代でも掘立柱建物の様式を踏襲しています。

中世

平安時代末期以降、掘立柱建物が一般集落の住居として普及し、総柱型と呼ばれる新しい様式が登場しました。この様式は、柱を碁盤の目のように配置するもので、鎌倉時代には武家屋敷にも多く見られました。兵庫県神戸市の箱木千年家は、現存する最古の民家として、総柱型建物の古式を伝えています。他に梁間1間型など様々な形式があり、地域差も存在しました。柱間間隔は2.0mか2.4m前後のものが多く、建築技術や技能者集団の系統の違いを示唆しています。

近世以降

近世に入っても、庶民住宅では掘立柱建物の伝統が強く残りました。庶民階級への礎石建物の普及は18世紀後半以降で、幕末期以降に一般化しました。近代以降は、石材の輸送が便利になり、コンクリートなどの新素材の普及により、掘立柱建物は姿を消していきました。

掘立柱建物の基礎と腐食対策

掘立柱建物の基礎には様々な工夫が凝らされており、地盤の状況や建物の用途によって異なる方法が用いられていました。柱の腐食を防ぐためには、地下水面下への設置が重要です。建築基準法にも、木ぐいの設置に関する規定があります。歴史的建造物の復元においては、倒壊防止と腐食防止を兼ねてコンクリートによる根固めが行われることもあります。

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