食品照射

食品照射について

食品照射とは、X線やガンマ線、電子線といった放射線を用いて食品の保存期間を伸ばしたり、殺菌や殺虫を行う技術です。この方法は、食中毒の予防や害虫駆除に伴う化学薬品の使用を減少させる手段として、近年注目されています。

歴史的背景

食品に対する放射線の効果は、1900年頃にX線を照射すると微生物が死滅することが確認されて以来、多くの研究が行われてきました。1940年代には、放射線を利用してジャガイモなどの根菜類の発芽を抑えることが知られ、1942年から1943年にはマサチューセッツ工科大学でハンバーグ・パティの保存に関する研究が進められました。

従来の方法との比較

放射線照射が普及する前、食品の保存には酸化エチレンガスや臭化メチルガスが用いられていました。これらは発がん性やオゾン層への影響が問題視され、現在では多くの国で使用が制限されています。

国際的な実施状況

現在、食品照射が最も広く行われている分野は、香辛料や乾燥野菜の殺菌です。香辛料は加熱処理を行うと香りが損なわれるため、薬剤による処理が避けられます。アメリカやカナダ、EU諸国、オーストラリアをはじめ、46カ国以上で香辛料への照射が認められています。特に2000年には、世界で約9万トンの香辛料が照射されました。

食品の安全性

国際連合食糧農業機関（FAO）、国際原子力機関（IAEA）、世界保健機関（WHO）が設置した専門委員会は、1980年に10キログレイ以下の照射食品が安全であるとの声明を発表しました。1997年には上限が撤廃され、30-50キログレイの照射食品についても安全性が認められました。ただし、2003年には、このプロセスで生じる高線量の食品について、一部の例外を除いては原則的に制限される方針が確認されています。

残留物質や変化

食品が10キログレイ以下の照射を受けた場合、栄養素への影響はほとんど観察されません。しかし50キログレイの照射では、いくつかの栄養素が減少することが確認されていますが、その量は微小です。また、放射線照射によって生成される新たな物質や変化についても、十分な研究が行われており、ほとんどの場合、調理によって生じる変化と大差ないとされています。

日本における状況

日本では、食品への放射線照射が有用であるにもかかわらず、心理的な抵抗感から普及は進んでいません。現在、許可されているのは主にジャガイモであり、それ以外の食品への適用は認められていません。1975年にジャガイモの発芽防止のために照射が導入された後、生活協同組合やスーパーマーケットが取引を一時中止するなど、反発の声が上がりました。

結論

食品照射は、保存性や食品の安全性を向上させる有効な手段ですが、日本を含む一部の地域では心理的な抵抗感から浸透がなかなか進んでいないのが現状です。今後、国際的な安全性の検証を基に、より多くの食品への放射線照射の許可が検討されることが期待されています。

もう一度検索