飯沼

飯沼（いいぬま）とは

飯沼は、かつて茨城県南西部に存在した湖沼です。現在の古河市尾崎付近から南東方向へ細長く広がり、坂東市大口・猫実付近が南端でした。古河市、八千代町、坂東市、常総市にまたがる広大な沼であり、かつては周辺地域の生活に深く関わっていました。

古墳時代から戦国時代

飯沼周辺は、古墳時代から政治経済が活発な地域でした。多くの古墳が分布しており、特に五十塚古墳群や東浦古墳などは、当時の繁栄を物語っています。また、集落遺跡も多く見つかっており、人々がこの地で生活を営んでいたことがわかります。

平安時代の軍記物語『将門記』には、「広河江（ひろかわのえ）」という言葉が登場します。これは飯沼を指すと考えられており、当時の飯沼が広大な水域であったことを示唆しています。

戦国時代には、飯沼の西岸に逆井城がありました。この城は、当初は古河公方方の逆井氏、後には後北条氏の支配下となり、北関東進出の拠点として重要な役割を果たしました。

江戸時代前期の飯沼

江戸時代、享保年間以前の飯沼は、周辺23か村の入会地であり、生活用水や漁業資源の供給源として利用されていました。しかし、寛永年間に行われた鬼怒川の開削により、干上がり地が生じ、周辺村々で土地の境界や損益をめぐる争いが頻発するようになりました。このことが、後の新田開発へとつながっていきます。

飯沼新田開発

享保の改革の一環として、飯沼の新田開発が開始されました。飯沼は鬼怒川に注いでいましたが、開発ではまず南西部の台地を開削し、菅生沼を経由して利根川に接続する水路（新堀・飯沼川）を建設しました。この水路によって飯沼の排水を図り、新田を造成しようとしました。

しかし、この排水は不十分でした。そのため、飯沼に流れ込む江川を古河市尾崎で分流し、飯沼の東縁に東仁連川を開通させて鬼怒川に水を流しました。同様に、西縁には西仁連川を開通させ、飯沼の南端で飯沼川と合流させました。

それでも排水は十分ではなく、水害が頻発しました。そこで昭和時代には、さらに別の水路を南西部の台地に開削し、東仁連川の水をこの水路に流して菅生沼に導く工事が行われました。これらの工事により、飯沼は完全に排水され、広大な水田地帯へと生まれ変わりました。

新田開発によって得られた耕地面積は1,525ヘクタールに達し、収穫量は約2,157トンに増加しました。この開発には、飯沼周辺の24か村が携わりました。

飯沼新田開発に携わった村々（享保9年）

結城郡
平塚村(現在の八千代町)
恩名村(現在の古河市)
猿島郡
仁連町(現在の古河市)
東山田村(現在の古河市)
逆井村(現在の坂東市)
山村(現在の坂東市)
沓掛村(現在の坂東市)
弓田村(現在の坂東市)
馬立村(現在の坂東市)
幸田村(現在の坂東市)
神田山村(現在の坂東市)
猫実村(現在の坂東市)
大口村(現在の坂東市)
生子村(現在の坂東市)
岡田郡
横曽根村(現在の常総市)
横曽根新田(現在の常総市)
大生郷村(現在の常総市)
古間木村(現在の常総市)
鴻野山村(現在の常総市)
馬場村(現在の常総市)
崎房村(現在の常総市)
栗山村(現在の八千代町)
尾崎村(現在の八千代町)
芦ケ谷村(現在の八千代町)

現在の飯沼

現在の飯沼は、かつての湖沼の面影を残すことなく、一面の水田地帯となっています。しかし、その歴史は地域の文化や人々の暮らしに深く根付いており、多くの資料や記録によって語り継がれています。

参考文献

長命豊「飯沼新田開発 - 江戸期農民の水との苦闘史 -」 ふるさと文庫, 1978.
三和町史編さん委員会編『三和町史通史編近世』三和町、平成12年
八千代町史編さん委員会編『八千代町史通史編』八千代町、昭和62年

関連項目

飯沼 (曖昧さ回避)
飯沼村 (茨城県)
井沢弥惣兵衛

外部リンク

飯沼新田 - ウェイバックマシン（2016年9月20日アーカイブ分）

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