井沢弥惣兵衛

井沢弥惣兵衛（いざわ やそべえ）は、17世紀中頃から18世紀にかけて活躍した江戸時代の治水家であり、旗本、美濃郡代でもありました。 1654年（承応3年）に紀伊国（現在の和歌山県）で生まれたとされていますが、1663年（寛文3年）生まれという説もあります。本名は為永（ためなが）です。


弥惣兵衛は、元禄3年（1690年）に紀州藩に仕え、勘定方としてその才能を発揮し始めます。特に、紀州藩主であった徳川吉宗（後の第8代将軍）の命を受け、紀の川流域における新田開発を成功させたことは、彼の治水家としてのキャリアを決定づけるものでした。その後、享保期に入り、全国的に新田開発が奨励されるようになると、弥惣兵衛は、将軍となった吉宗の命を受け、灌漑や新田開発といった事業に尽力することになります。


享保8年（1723年）には幕府の旗本に取り立てられ、その活動範囲はさらに広がりました。主な事業としては、武蔵国（現在の埼玉県、東京都の一部）における見沼干拓、見沼代用水の開削、多摩川の改修、下総国（現在の千葉県北部）の手賀沼新田開発、木曽三川の改修計画、鴻沼干拓、小合溜井などが挙げられます。これらの事業は、当時の農地拡大と水害対策に大きく貢献しました。また、幕臣としても、享保16年（1731年）に勘定吟味役、享保20年（1735年）には美濃郡代に就任するなど、その才能は多岐にわたりました。


弥惣兵衛は、元文3年（1738年）3月1日にその生涯を閉じました。墓所は、東京都千代田区にある浄土宗心法寺にあります。また、埼玉県白岡市の常福寺にも分骨された墓があります。さらに、さいたま市見沼区の萬年寺には、その功績を称える「頌徳碑」が文化14年（1817年）に建立されています。大正4年（1915年）には、その功績が認められ、従五位が追贈されています。


弥惣兵衛の息子である楠之丞正房も、父の跡を継ぎ、弥惣兵衛を名乗り、治水事業に貢献しました。特に、元文4年（1739年）には手賀沼新田方として活躍し、父と同様の才能を発揮しました。さいたま市緑区の見沼自然公園には、彼の功績を称え、銅像が建てられています。井沢弥惣兵衛は、その卓越した技術と不屈の精神で、江戸時代の治水事業に大きな足跡を残した人物として、今日でも多くの人々に敬意を払われています。


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* 田中休愚

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