飯田橋事件

飯田橋事件とは

飯田橋事件は、1968年1月19日に発生した、学生デモ隊と警視庁機動隊の衝突事件です。この事件は、デモ隊が所持していたプラカードが凶器準備集合罪における「凶器」に該当するかどうかが、法的に争われたことで知られています。

事件の概要

1968年1月15日、佐世保エンタープライズ寄港阻止闘争に参加するため、中核派の学生約200人が、4センチメートル角、長さ1.2メートルのプラカードと佐世保までの乗車券を持って、法政大学を出発しました。彼らは、国電飯田橋駅へ向かう途中、規制線を張っていた機動隊と衝突し、131人が現行犯逮捕されました。

検察は、学生たちがプラカードで警察官を殴打することを決意した時点で凶器準備集合罪が成立し、実際に殴打した時点で公務執行妨害罪が成立すると主張し、6人を起訴しました。しかし、この警察の対応は、学生たちを佐世保へ行かせないための事実上の予防検束ではないかとの批判も出ました。起訴されなかった学生たちは、エンタープライズが佐世保を出港した1月23日以降に釈放されています。

この事件は、学生のデモに対して凶器準備集合罪が適用された最初の事例となりました。当時、国会では凶器準備集合罪の対象は暴力団であり、政党活動や政治集会は対象外であるとの見解が示されており、プラカードは凶器ではないとされていました。しかし、検察は、プラカードが使い方によっては凶器になり得ると主張し、用法上の凶器であるとしました。

裁判の経過

1971年3月19日、東京地裁は、「警察の警備に違法性はなく、プラカードは用法上の凶器である」として、凶器準備集合罪の成立を認め、6人に懲役4年執行猶予1年の有罪判決を言い渡しました。しかし、被告は控訴し、1974年3月29日、東京高裁は、「警察の警備は集団全員を逮捕する意図があった疑いがある」とし、「学生の暴行は機動隊に誘発された偶発的行為である」として、凶器準備集合罪の成立を否定、2人に無罪、4人に暴行罪で5000円の罰金刑を言い渡しました。

検察はこれを不服として上告、1977年5月6日、最高裁は「デモ隊の先頭部分にいた学生らが警察官に対し、プラカードなどを振り上げて加害行為に出た時点以後においては、少なくとも直接暴行に及んだものらには共同加害の意思があった」と判断し、プラカードを「用法上の凶器」と認定、二審判決を破棄し、東京高裁に差し戻しました。

差し戻し後の高裁で、6人に懲役4月執行猶予1年の判決が下され、1981年6月20日、最高裁が上告を棄却し、6人の有罪判決が確定しました。この事件は、デモにおけるプラカードの扱いと、凶器準備集合罪の適用範囲について、重要な判例としての意味を持っています。

参考文献

田中二郎、佐藤功、野村二郎『戦後政治裁判史録4』第一法規、1980年。
成瀬幸典、安田拓人、島田聡一郎 編『刑法II 各論』信山社〈判例プラクティス〉、2012年3月15日。

関連項目

罪刑法定主義
凶器準備集合罪・凶器準備結集罪

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