飯田正伯

飯田 正伯（いいだ しょうはく）は、文政8年（1825年）に生まれ、文久2年6月1日（1862年6月27日）に没した、江戸時代末期の幕末期に活躍した長州藩士です。

文政8年、飯田は長州藩に仕える藩医の子として生を受けました。父は50石取りの地位にありました。青年期に入ると、彼は思想家・教育者として知られる吉田松陰が主宰する私塾、松下村塾の門を叩きました。

松下村塾へ入塾したのは安政5年（1858年）のことです。ここでは主に兵学を深く学びました。特筆すべきはその年齢で、入塾時すでに34歳であり、塾生の中では山根孝中に次いで二番目の年長者でした。若き俊英たちが集まる中で、飯田は円熟した年齢ながら、松陰の教えに真摯に向き合い、知識を吸収していきました。

時代の転換点となった安政の大獄により、師である吉田松陰が江戸で刑死するという悲劇が起こると、飯田は深い悲しみに包まれました。彼は桂小五郎（後の木戸孝允）や伊藤博文といった他の松下村塾の仲間たち、そして長州藩の有志と共に、松陰の亡骸を江戸から引き取り、故郷の長州に手厚く葬るために奔走しました。この行動は、師への深い敬愛と、その遺志を継承しようとする強い決意を示すものでした。

松陰の死後、飯田は長州藩に召し抱えられ、「分析掛」という重要な役職に就任しました。当時の長州藩は、来るべき激動の時代に備え、軍備の近代化を進めており、飯田はここで特に銃などの兵器類の管理や性能調整といった、軍事技術に関わる実務を担当しました。これは、松下村塾で培った兵学の知識を生かす機会であったと言えるでしょう。

しかし、飯田の人生は予期せぬ方向へ向かいます。万延元年（1860年）7月、彼は藩の軍用金調達という名目を掲げ、大胆な行動に出ます。幕府の直轄地である浦賀（現在の神奈川県横須賀市）に赴き、裕福な商人宅を襲撃して金品を強奪するという事件を起こしたのです。この事件は、当時の緊迫した社会情勢や、藩の財政的な苦境が背景にあったとも考えられますが、その詳細は定かではありません。

この強盗事件により、飯田は幕府によって罪人として捕縛され、江戸の牢獄に収監されることとなりました。かつて松下村塾で未来を語り合った仲間たちがそれぞれの道を歩み始める中、飯田は冷たい獄舎の中で日々を送ることになります。

そして、文久2年（1862年）6月1日、飯田正伯は志半ばにして獄中で病に倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。享年38歳という若さでの死去でした。彼の行動は法を犯すものでしたが、その背景にある藩への忠誠心や、時代の波に翻弄された人生は、幕末という激動の時代の一断面を映し出しています。

彼の死後、飯田には正三位の位階が追贈されています。これは、彼の罪よりも、その生涯における功績や、長州藩への貢献、そして松下村塾で培われた精神性が評価された結果であると考えられます。

飯田正伯に関連する事項としては、「飯田氏」が挙げられます。

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