飯盛武夫

飯盛武夫：日本のサイクロトロン研究の先駆者と希元素化学への貢献

飯盛武夫（いいもり たけお、1912年3月28日-1943年8月16日）は、日本の化学者であり、数々の重要な研究で知られています。彼は31歳という若さで亡くなりましたが、日本の科学技術の発展に多大な貢献を残しました。

早期経歴と研究生活

飯盛武夫は、著名な化学者である飯盛里安の長男として1912年に生まれました。父と同じく、東京帝国大学理学部化学科を卒業し、その後理化学研究所に入所しました。理化学研究所では、当初、飯高研究室に所属し、鉄の酸化過程における酸化鉄の結晶構造を電子線回折法を用いて研究しました。その後、父の主宰する飯盛研究室に移り、希元素の研究を本格的に開始しました。

サイクロトロン研究への貢献

飯盛武夫は、理化学研究所におけるサイクロトロン研究においても重要な役割を果たしました。仁科芳雄博士が主導した日本で最初の26インチサイクロトロンの開発に携わり、中性子照射による放射性同位体の生成と分離に関する先駆的な研究を行いました。特に、硫黄の中性子照射による放射性リンの化学的分離や、クロムへの中性子および重陽子線照射による放射性クロム同位体の生成を実証したことは、彼の重要な業績として挙げられます。

理化学研究所では、より高エネルギーの粒子ビームを得られる60インチ・サイクロトロンの建設が計画されました。その過程で、飯盛武夫は、当時アメリカに留学していた嵯峨根遼吉から、アメリカ・カリフォルニア大学放射線研究所(現在のローレンス・バークレー国立研究所)での60インチ・サイクロトロン開発の情報を提供されました。この情報に基づき、電磁石をアメリカから輸入することになり、飯盛武夫は、矢崎為一、渡辺扶生と共に、サイクロトロンの完成と調整に尽力しました。彼らは、日米関係が悪化する中で、特別な許可を得て、アメリカのサイクロトロン施設を見学し、貴重な技術情報を持ち帰りました。残念ながら、60インチ・サイクロトロンが完成し実験に使用できるようになったのは、彼の死後でした。

朝鮮半島における希元素鉱物調査

飯盛武夫は、父や研究室メンバーと共に、朝鮮半島において希元素鉱物資源の調査を行いました。1934年には、広範囲にわたる調査を行い、各地に散在する砂金採集地の副産物から希元素鉱物が得られることを明らかにしました。また、1937年には、黒色のモナズ石を発見しました。さらに、1938年には、コルンブ石やニオブタンタル鉱物を発見し、それらの分析を行いました。これらの調査は、日本の希元素資源開発に大きく貢献しました。

希元素製品製造工程の確立

理化学研究所の希元素研究は、当初は学術的な研究が中心でしたが、次第に工業的な需要が増加しました。飯盛武夫は、1939年に設立された理研希元素部、そして1941年に設立された理研希元素工業株式会社における希元素製品製造工程の確立に貢献しました。日中戦争と太平洋戦争の勃発により、希元素製品の需要が急増したことから、足立工場と荒川工場が建設されました。飯盛武夫は、研究室メンバーと共に、これらの工場の操業に不可欠な諸工程を確立することに尽力しました。足立工場では、朝鮮半島産の砂金残砂からの希土類元素、トリウム、ウランなどの分離精製が行われ、荒川工場では、ウラン、バナジウム、ジルコニウムなどの抽出と製造が行われました。

論文発表と飯盛石

飯盛武夫は、研究成果を多数の論文として発表しています。これらは、酸化鉄の結晶構造、サイクロトロンを用いた放射性同位体の生成、希元素鉱物の化学組成など多岐にわたります。彼の父、飯盛里安と彼の希元素研究の業績をたたえ、飯盛石という新鉱物が命名されました。

早すぎる死と業績

飯盛武夫は、数々の重要な研究成果を残しながら、31歳という若さで亡くなりました。彼の早すぎる死は日本の科学界にとって大きな損失でしたが、彼の研究は、日本の科学技術の発展に大きな足跡を残し、現在でも高く評価されています。

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