トリウム

トリウムの概要

トリウム（原子番号90、元素記号Th）は、アクチニウム群に属する銀白色の金属元素です。この元素は、主にモナザイト砂に見られ、特にオーストラリア、インド、ブラジル、マレーシア、タイで採取されます。モナザイトは希土類元素を多く含む鉱物で、トリウムはそれらの副産物として得られます。

特徴と性質

天然に存在するトリウムには、放射性同位体であるトリウム232のみがあります。安定同位体は存在せず、半減期が非常に長いのが特徴で、約140億年あります。トリウムは地殻中に豊富に分布し、約10ppmの濃度で存在していますが、水に対しては溶解しにくい性質を持ち、海水中にはほとんど見られません。

トリウムは1898年にマリ・キュリー夫妻により放射能のある元素として発見されました。トリウム232が中性子を吸収するとトリウム233に変わり、さらにベータ崩壊してプロトアクチニウム233を経て、最終的にウラン233になります。ウラン233は核燃料として利用されるため、トリウムもその原料として注目されているのです。

物理的特性

トリウムは柔らかい金属で、非常に延性があり、結晶構造は面心立方格子を持ちます。特筆すべきは、トリウムの融点と沸点の差が大きく、液体状態で存在する温度範囲が2946℃に達することです。また、酸化しやすいものの、酸化皮膜を形成するとそれ以上の酸化が進行しにくくなります。加熱されると白光を発して激しく燃焼し、粉末状態では常温でも自然発火する特性があります。

化合物と同位体

トリウムの安定した化合物は酸化数+4の状態であり、主なものには二酸化トリウム（ThO2）、フッ化トリウム（ThF4）、水酸化トリウム（Th(OH)4）などがあります。これらの化合物は、反応性や溶解性に独特の特性を持ちます。

トリウムには全て放射性の同位体が27種類存在し、その中でトリウム232が最も一般的です。この同位体の半減期は140億年で、主にアルファ崩壊を通じてラジウム228に変わります。その他の同位体としては、トリウム230（75380年の半減期）、トリウム229（7340年の半減期）、トリウム228（1.92年の半減期）が知られています。

用途

トリウムは多様な用途で利用されており、歴史的には直熱型真空管のフィラメントや高屈折率レンズ、X線血管造影剤、アーク溶接用電極、さらにはガス灯のマントルなどに使われました。特に、トリウムレンズは小さな色収差を持つため、1950年代から1970年代にかけて感度が高い光学機器に活用されました。

最近では、トリウムは核燃料としての可能性が再評価され、主にインドでのトリウム炉での利用が進められています。トリウム燃料サイクルは、ウラン燃料よりも安全性が高いとされているため、今後のエネルギー政策において重要な役割を果たす可能性があります。

健康リスク

トリウムの扱いには注意が必要です。放射性であるため、外部被曝よりも内部被曝のリスクが高く、体内に取り込まれると肺や肝臓に影響を及ぼすことがあります。国際がん研究機関（IARC）はトリウム232をヒトに対して発癌性があると分類しています。粉末状のトリウムは自然発火性も持つため、適切な取扱いが重要です。

トリウムの性質と用途に関する理解は、今後の技術開発に寄与するでしょう。

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