養和の北陸出兵

養和の北陸出兵とは

養和の北陸出兵（ようわのほくりくしゅっぺい）は、平安時代末期の養和元年（1181年）7月頃から同年11月にかけて、平家が北陸地方で活発化した反乱勢力を鎮圧するために行った軍事行動です。この出兵は、源平合戦の前哨戦とも位置づけられ、当時の政治情勢や社会構造を理解する上で重要な出来事です。

背景

1181年6月、源義仲が横田河原の戦いで平家方の城資職を破ったことをきっかけに、加賀、能登、若狭といった北陸地方の豪族たちが反乱を起こしました。この背景には、以前から存在していた白山神社の衆徒と国衙勢力との対立（白山事件）があり、国衙側と見なされていた平家は、在地からの反感を招いていました。さらに、1180年11月には近江源氏の蜂起に呼応する動きが若狭で見られるなど、反乱の萌芽は以前から存在していました。

出兵の経緯

1181年7月後半頃、加賀と能登で反乱が始まり、越前にも波及しました。平家は、まず城資職を越後守に任命し、続いて8月には平通盛と平経正を追討使として北陸へ派遣しました。平通盛は越前国府に入りますが、現地の住民はこれに従わず、9月6日には水津で反乱勢力との間で戦闘が起こり、通盛は敗北して越前国府を追われ、敦賀城に退却しました。

さらに、通盛は敦賀城からも追われることになります。この時、若狭に滞在していた平経正は援軍を出しませんでした。10月には都で北陸への援軍計画が立てられましたが、実際には派遣されませんでした。そして、11月2日、平通盛は北陸での戦果を上げられないまま帰京しました。

平家はその後も北陸への出兵を計画しましたが、大嘗祭の準備を理由に見送り、本格的な出兵は1183年まで待つことになります。

北陸の重要性

当時、東海道や東山道も反乱勢力に制圧されていましたが、北陸は平家にとって兵糧を供給する上で重要な地域でした。そのため、平家は鎮西（九州）と並んで北陸の反乱を早期に鎮圧する必要がありました。このことが、平家が北陸への出兵を重視した理由です。

義仲との関係

後世に編纂された『吾妻鏡』には、この一連の北陸出兵が「義仲討伐のため」と記されていますが、当時の記録には、1183年5月まで義仲の名前は登場しません。実際には、この養和の出兵は、北陸の反乱勢力の鎮圧を目的としたものであり、北陸の反乱勢力が当時から義仲の支配下にあったわけではありません。

まとめ

養和の北陸出兵は、平家が北陸地方の反乱勢力に苦戦したことを示す事例です。この出兵の失敗は、後の源平合戦における平家の衰退の一因となりました。また、北陸地方が当時の社会において重要な役割を担っていたことを示唆する出来事でもあります。この戦いは、単なる地方反乱の鎮圧ではなく、その後の源平合戦に繋がる重要な転換点でした。

参考文献

上杉和彦　『戦争の日本史 6 源平の争乱』　吉川弘文館、2007年。
菱沼一憲　『源義経の合戦と戦略 その伝説と虚像』　角川選書、2005年。
* 宮田敬三「十二世紀末の内乱と軍制　ー兵粮米問題を中心として」（『日本史研究』501号）

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