首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑

イングランドにおける反逆罪と残忍な死刑：首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑

イングランドにおいて、かつて反逆罪の最高刑として存在した「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」は、その残虐性から歴史に暗い影を落としています。本稿では、この恐るべき刑罰の歴史的経緯、執行方法、そしてその廃止に至る過程を詳細に解説します。

中世イングランドの反逆罪と処刑方法

中世イングランドでは、王への忠誠を裏切った者は、様々な残酷な刑罰に処せられました。13世紀以降、反逆罪に対する処罰は更に厳しくなり、「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」が導入されました。これは、まず馬に引きずり回された後、首を吊られ（死の寸前まで）、その後、内臓を抉り出され、四肢を切り刻まれるという、極めて残忍なものでした。処刑された死体は、ロンドン橋など公共の場所に晒され、反逆を企む者への見せしめとされました。女性の場合は、公序良俗の観点から火刑に処されるのが一般的でした。

罪の重さは、処罰の厳しさに反映されました。王室権威への挑戦は、最も卑劣な犯罪とみなされ、極刑が必然視されたのです。エリザベス朝のカトリック司祭や、チャールズ1世処刑に加担した者なども、この刑に処されています。

歴史家マシュー・パリスの記録によると、1238年にはヘンリー3世暗殺未遂事件に関与した者が、引きずり回され、バラバラにされた後、斬首され、死体は主要都市に送られたと記されています。また、ウェールズの反乱指導者ダヴィズ・アプ・グリフィズや、スコットランドのウィリアム・ウォレスも、この刑に処されています。彼らの処刑は、王室に対する反抗の象徴として、国民に広く知れ渡ったのです。

1351年反逆法と大逆罪

反逆罪の定義は、当初曖昧でした。しかし、エドワード3世の治世下、1351年に「1351年反逆法」が制定され、反逆罪の範囲が明確化されました。この法律は、王や王室への直接的な危害、王への反乱、王の敵への支援、国璽や貨幣の偽造などを大逆罪と定義し、男性には「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」、女性には火刑が科せられました。しかし、裁判官には、必要に応じて反逆罪の範囲を拡大する裁量権が与えられており、これは後に「擬制的反逆罪」として知られるようになります。

刑の執行：詳細な過程

処刑は、数日間の投獄の後、行われました。罪人はハードルに載せられ、馬に引かれて処刑場へと連行されました。まず、首を吊られ、意識が朦朧とする状態にされた後、内臓を抉り取られ、焼かれました。そして、斬首され、四肢を切り刻まれ、各地に送られたのです。処刑方法は、必ずしも統一されておらず、死刑執行人の熟練度や、罪人の抵抗の度合いによって、その過程は異なりました。

民衆の関与も無視できません。処刑の現場には大勢の群衆が集まり、罪人を罵倒したり、襲撃したりすることもありました。一方で、罪人に悔い改めを促す説教者も存在しました。処刑後、遺体は各地に送られ、見せしめとして晒されました。特にロンドン橋は、処刑された反逆者の頭部を晒す場所として有名でした。

1695年反逆法と処刑方法の変更

17世紀後半には、政治的動機による反逆罪の告発が多発し、1695年反逆法が制定されました。これにより、被告人の権利が強化され、処刑方法も多少変化しましたが、根本的な残虐性は変わりませんでした。

廃止への道程

18世紀以降、死刑に対する世間の意識は変化し始めました。残虐な処刑方法に対する批判が高まり、1790年には女性への火刑が廃止され、絞首刑に改められました。その後も死刑制度の改革は進み、1814年には反逆罪の刑罰が「死ぬまで絞首刑、死体の国王による処分」に変更されました。しかし、斬首刑が一部に残されたりもしました。最終的に、1870年没収法により、「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」は廃止されました。1998年には、反逆罪の死刑自体が廃止されました。

アメリカ合衆国における事例

アメリカ独立戦争においても、この刑に相当する処罰が執行された事例が残されています。

まとめ

「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」は、イングランドにおける反逆罪に対する、極めて残酷な刑罰でした。その歴史は、権力と抵抗、そして社会の変遷を反映しています。この刑罰の廃止は、人権意識の高まりと、より人道的な社会への移行を示す重要な出来事と言えるでしょう。

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