香川景樹

香川景樹：江戸時代後期の歌壇を揺るがした革新者

香川景樹(1768-1843)は、江戸時代後期に活躍した歌人です。鳥取藩士の家に生まれ、幼少期から読書や書道に親しみ、才能を開花させました。しかし、7歳の時に父を亡くし、一家離散の憂き目に遭います。その後、養子として育てられ、学問を修め、歌道に精進しました。

若くして百人一首の注釈を手掛けた景樹は、清水貞固に師事し、儒学にも通じました。同門の林宣義や荒尾礼就とは生涯にわたる交流を持ちますが、彼らが武士として出世する中、景樹は学者の道を歩むことを決意します。26歳で京都へ上洛、鷹司家、西洞院家などに仕えましたが、様々な事情から転々とすることになります。

転機は、二条派の歌人、梅月堂香川景柄の養子となった時です。そこで名を景樹と改め、徳大寺家に仕え、公家の歌会に頻繁に参加するようになります。本居宣長とも出会い、その門人である植松有信と歌の贈答を行うなど、歌人としての交友関係を広げました。

特に、小沢蘆庵の影響を強く受け、蘆庵に師事して歌の指導を受けました。蘆庵の思想は、景樹の独自の 歌論「調の説」に大きな影響を与えました。この「調の説」は、既存の歌論を覆す革新的なものでしたが、保守的な歌人たちからの激しい反発を招きます。

「大天狗」という渾名で呼ばれるほど、自信家で尊大な態度をとることもあった景樹は、保守派からの激しい批判にさらされながらも、自説を曲げず、独自の道を歩み続けました。旧派の歌人たちからは「未熟」「弊風がある」と痛烈に批判されたものの、景樹はそれらに反論し、歌壇に新風を吹き込みました。

しかし、革新的な歌論は、伝統を重んじる養父・景柄や香川家との間にも摩擦を生じさせます。経済的な理由もあって、1808年には香川家と離縁しますが、その後も香川の姓を名乗り続け、養父との関係も良好に保たれました。

香川景樹は、その斬新な歌論と、保守派との激しい対立、そして波乱に満ちた生涯によって、江戸時代後期の歌壇に大きな足跡を残しました。彼の歌論は、後の歌壇にも多大な影響を与え、現代においても高く評価されています。小説家志茂田景樹のペンネームは、この香川景樹に由来すると言われています。正五位を追贈されたことは、その功績が後世に認められた証と言えるでしょう。

主な門人:

熊谷直好
木下幸文
内山真弓
中西石陰
菅沼斐雄

参考文献:

兼清正徳「香川景樹」（吉川弘文館人物叢書）

関連事項:

香川宣阿
桂園派

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