香港特別行政区基本法

香港特別行政区基本法（香港基本法）について

香港基本法は、中華人民共和国香港特別行政区（以下、香港）における憲法にあたる「憲制性文件」であり、香港の基本法とも呼ばれます。この法律は、前文と9章、および3つの付属文書から構成され、香港の政治、経済、社会、文化など、多岐にわたる分野を規定しています。

基本法の構成

香港基本法は、以下の構成要素から成り立っています。

前文: 基本法の制定背景や目的が述べられています。
第一章：総則: 香港の基本原則や「一国二制度」の原則について規定しています。
第二章：中央政府と香港特別行政区の関係: 中央政府と香港の間の権限関係について規定しています。
第三章：住民の権利と義務: 香港住民の基本的な権利と義務を保障しています。
第四章：政治体制: 香港の政治体制、行政長官や立法会の選出方法などを規定しています。
第五章：経済: 香港の経済システムや自由貿易の原則について規定しています。
第六章：教育、科学、文化、スポーツ、宗教、労働および社会サービス: 各分野における基本原則を定めています。
第七章：対外関係: 香港の対外関係について規定しています。
第八章：解釈と改正: 基本法の解釈と改正に関する手続きを規定しています。
第九章：付則: 基本法の施行に関する事項を規定しています。
付属文書一：香港特別行政区行政長官の選出方法: 行政長官の選出方法について詳細に規定しています。
付属文書二：香港特別行政区立法会の選出方法および表決手続: 立法会の選出方法や表決手続について規定しています。
付属文書三：香港特別行政区において施行される全国性法律: 香港で適用される全国的な法律を明記しています。

基本法の制定過程

香港基本法の制定は、1982年の中華人民共和国憲法の改正に端を発します。この改正で、香港とマカオの将来的な回収に備え、特別行政区の設置に関する規定が設けられました。1984年には、英中共同声明が調印され、香港の返還が決定しました。これを受け、1985年に香港特別行政区基本法起草委員会が設立され、基本法の起草作業が開始されました。

起草委員会は、中国大陸側と香港側の委員から構成され、香港の各界から意見を聴取するために、香港基本法諮詢委員会も設置されました。しかし、1989年の天安門事件後、一部の委員が辞任や解任を余儀なくされ、起草委員会内でも意見の対立が生じました。最終的に、1990年4月に香港基本法は可決成立しました。

基本法の主要な規定

第一章：総則

第一章では、香港が中華人民共和国の不可分の一部であること、高度な自治が保証されること、「一国二制度」の原則、香港住民の権利と自由の保障などが規定されています。また、香港における私有財産権の保護や、基本法の最高法規性についても明記されています。

第二章：中央政府と香港特別行政区の関係

第二章では、中央政府と香港特別行政区の間の関係について規定しています。香港の高度な自治が保証される一方で、中央政府が香港に影響力を持つことも明確にされています。また、香港で適用される全国的な法律は、付属文書三で明記するとされています。

第三章：住民の基本的な権利と義務

第三章では、香港住民の基本的な権利と義務について規定しています。政治的デモの自由を含む、幅広い自由が保障されていました。しかし、香港国家安全維持法の制定により、これらの権利が制限されるという問題が生じています。

第四章：政治体制

第四章では、香港の政治体制について規定しています。行政長官と立法会の選出方法が定められていますが、その民主化を巡っては、香港の歴史の中で激しい議論が繰り広げられてきました。

第八章：本法の解釈と改正

第八章では、基本法の解釈権が全国人民代表大会常務委員会に属することが規定されており、この点が香港の自治の限界となっています。また、香港政府には基本法の改正権はありません。

付属文書について

付属文書一：香港特別行政区行政長官の選出方法

付属文書一では、行政長官の選出方法が規定されており、選挙委員会の構成や選出方法が改正されてきました。2021年の改正では、選挙委員の選出方法が大幅に変更され、民主派の立候補が困難になりました。

付属文書二：香港特別行政区立法会の選出方法と表決手続き

付属文書二では、立法会の選出方法が規定されており、普通選挙枠の議員数や職能別選挙枠の議員数などが改正されてきました。2021年の改正では、普通選挙枠が大幅に削減され、民主派の議員が議会から排除される結果となりました。

付属文書三：香港特別行政区において施行される全国的な法律

付属文書三では、香港で適用される全国的な法律が明記されており、香港国家安全維持法が追加されたことで、香港の自治が大きく制限されることになりました。

基本法の解釈権とその行使事例

香港基本法に対する解釈権は、全国人民代表大会常務委員会にあります。全人代常務委員会は、必要に応じて香港基本法委員会の意見を求めます。香港域内の裁判所も域内の問題について解釈できますが、中央政府との関係にかかわる問題については、最終審にいたるまでに、香港終審法院が全人代に解釈を要請しなければなりません。

解釈権の行使事例

1999年の香港居住権問題: 香港人の中国本土出身の子女の居住権を巡り、全人代常務委員会が解釈権を行使し、香港の裁判所の判決を覆しました。
2004年の行政長官および立法会の選出方法の直接選挙化問題: 香港の民主化を求める声に対し、全人代常務委員会は、2007年以降の選挙方法の変更を可能とする一方で、その手続きを厳格化しました。
2005年の任期途中で退任した行政長官の後継者の任期問題: 行政長官が任期途中で辞任した場合の後任者の任期について、全人代常務委員会が解釈権を行使しました。

政治問題化した香港基本法の規定

基本法第23条と国家安全法

基本法第23条では、国家安全法を制定することが定められていますが、香港では表現の自由などを侵害するとして、長年、反対運動が繰り広げられてきました。2020年には、全人代が香港国家安全維持法を制定し、香港での国家安全維持法制が整備されました。2024年には香港独自の国家安全条例が制定され、この動きはさらに強化されています。

基本法第24条と「來港生仔團」問題

基本法第24条では、香港で生まれた中国公民に香港居住権を認めていますが、中国本土からの妊婦が香港で出産する「來港生仔團」問題が深刻化しています。この問題は、香港の公立病院の医療資源を圧迫し、香港住民の医療へのアクセスを制限する要因となっています。

まとめ

香港基本法は、香港の自治を保障する重要な法律ですが、その解釈や改正を巡っては、中国政府と香港の間で度々対立が生じています。特に、近年では、香港国家安全維持法の制定や選挙制度の改正により、香港の自治が大きく制限されており、香港の将来を左右する重要な要素となっています。

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