香紙切

香紙切（こうしぎれ）

香紙切とは、平安時代に成立したが、現在では完本が残っていない歌集『麗華集』の写本として知られる古筆切です。伝承によると、この作品は小大君によって書かれたとされていますが、その真偽には疑問も残ります。もともとこの作品は粘葉装冊子本として作成され、名の由来は香染め（丁字染め）と呼ばれる技法で、丁字の花弁や蕾の汁で黄色に染色された紙を使用したことに由来します。

書写の時期と書風

この香紙切は、書風や仮名の文字形から見ると、11世紀末から12世紀初の時期に書写されたと考えられています。この時期は上代様から中期、後期への移行が進んでいる時代であり、その変遷を示す作品としても貴重です。かつての名歌集『麗華集』は特に評価が分かれた作品であり、藤原通俊の『後拾遺和歌集』の序文では「うるわしき花の集といひ」と、評価は厳しいものでした。それでも、その後も藤原清輔の『奥義抄』や藤原俊成の『古来風体抄』に言及されています。この歌集自体は約10巻から成り立っていたと推測されていますが、現在確認できる原本はこの香紙切と伝小野道風筆の「八幡切」のみです。

書法の特徴

香紙切の書風は、従来の書道とは異なる独特の特徴を持っています。その一つに、筆を「突く」と表現されるように、迅速かつ鋭いラインが特徴的です。この書体は、一文字一文字にこだわることなく、むしろ気ままに書かれているように見えます。従来の様式から解放された自由な筆致は、当時の書道に新たな表現方法をもたらしたとも言え、個性的な表現の芽生えを示しています。ところどころに乱れた字形も見受けられますが、これもまたその表現の自由さを物語るものです。

現存状況と所蔵先

現在、香紙切は約90枚余りが現存し、時間の経過により薄茶色に退色しています。これらは主に個人コレクションとして存在しており、畠山記念館や前田育徳会、逸翁美術館、東京国立博物館、常盤山文庫など、多くの美術館や博物館に分蔵されています。香紙切は、書だけでなく、平安時代の歌集の重要な文献資料としても評価されています。

参考文献

この作品に関する詳細な解説は、島谷弘幸による『小島切 伝小野道風　香紙切 伝小大君』（二玄社、1994年）、石川九楊の「新しい段階の女手『香紙切麗華集』」（『なごみ』219号、1998年）、池田和臣の「最新科学で書を鑑定する VOL.6 平安かな古筆の名花 香紙切」（『聚美』VOL.6、2013年）など、多数の文献で探ることができます。

もう一度検索