後拾遺和歌集

後拾遺和歌集について

『後拾遺和歌集』は、平安時代に成立した重要な勅撰和歌集である。この歌集は、八代集中の一つとして位置づけられ、『拾遺集』の後を受け継ぐ形で編纂された。全20巻からなり、収められた歌の総数は1218首に及ぶ。このプロジェクトは白河天皇の勅命により、藤原通俊によって承保2年（1075年）に始まり、応徳3年（1086年）の完成後、さらなる改訂を経て、寛治元年に公式に奉納された。

通俊がこの重要な歌集の撰者に選ばれた理由は明らかではないが、彼は非凡な歌人であるよりも、当時の文人社会のなかでの位置づけや、他の著名歌人たちとの関係に影響された可能性がある。歌集の構成は、多様なテーマに基づいており、春、夏、秋、冬を含む四季のほか、賀歌、別離、旅に関する歌、哀傷、恋の歌、雑多な内容に分かれている。特に、巻20には「神祇」や「釈教」といった分類があり、これは勅撰集としての新しい試みである。

この歌集は、華やかな王朝文化の変遷を反映したものであり、歌の内容も幅広く、多様な作風が見られる。例えば、和泉式部による情熱的な恋歌や、赤染衛門の心遣い溢れる贈答歌、僧侶である能因や良暹の旅情を詠んだ歌などが含まれている。また、曾禰好忠の大胆で独創的な歌も評価が高い。各歌の背景や詠まれた情景を詳述する詞書も多く、散文的な特徴が指摘されている。

歌人としては、和泉式部が67首、相模が39首、赤染衛門が32首、能因法師が31首、伊勢大輔が26首など、多くの著名な詠み手が名を連ねている。特に、一条朝から白河朝にかけての宮廷で活躍した歌人が多く、作品の約3割を占める女流歌人たちも重要な役割を担った。加えて、後撰集や拾遺集の時代に名を馳せた清原元輔や源道済、藤原公任らも重要視されている。

しかし、この歌集はその率直な表現が評価される一方で、格調高い和歌の伝統に対して批判も受けていた。特に大納言源経信は、選者から漏れたにもかかわらず『後拾遺』を題材にした批判的な作品『難後拾遺』を著し、通俊の選集手法を厳しく攻撃したことが伝えられている。

歌集編纂の過程において、通俊は先輩歌人たちの意見を受け入れながら進めたとされ、草稿は周防内侍や康資王母、源経信らによる内覧を経て完成に至った。このように、歌集の内容は周囲の影響を受けており、一度完成した後も経信からの助言を反映して修訂が行われた。

また、通俊の選集にはいくつかの逸話が存在する。津守国基の歌が三首収められた背景には、通俊が彼に賄賂として魚を贈ったという噂があることが『袋草紙』に記されている。それにより、『後拾遺集』は「小鰺集」と呼ばれることもあった。このような伝説は、当時の文化や社会的な人間関係を反映しており、興味深い。

「後拾遺和歌集」は、王朝文化の豊かさと同時に、その衰退の兆しを捉えた作品である。様々な歌風と歌人の作品が詰まったこの歌集は、平安時代の文学を理解する上で欠かせない存在である。

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