馬 (映画)

映画『馬』の紹介

映画『馬』は1941年に公開された日本の映画で、東宝映画株式会社と映画科学研究所の共同制作によるものであります。本作は山本嘉次郎監督が手掛けたもので、東北の農村を舞台に、少女と馬との深い絆をセミドキュメンタリー手法で描いています。

作品の概要

この映画は、主人公である若い少女、小野田いねが、馬への愛情を通じて成長していく姿を描いています。彼女は馬市での出会いを通じて、馬に対する夢や希望を持つ一方で、厳しい現実や家族の苦悩も経験します。家族が馬を飼っていた過去の悲しい出来事と、それに伴う借金がいねの心に影を落とす中でも、彼女の馬への情熱は静かに燃え続けます。

スタッフとキャスト

映画の製作には多くの才能あるスタッフが参加しており、製作は森田信義、脚本と演出は山本嘉次郎によるものです。撮影は季節に合わせた複数のカメラマンによって行われ、黒澤明は製作主任として支えました。キャストには高峰秀子や藤原鶏太、竹久千恵子など、当時の有名な役者が揃っています。

あらすじ

物語は、秋の馬市から始まります。いねは馬が大好きですが、家族の経済状況が厳しいため、馬を飼うことは望めません。ある日、鑑定人から妊娠馬を預かることになり、彼女の夢が少しずつ現実となります。しかし、父のけがや借金が家族を苦しめ、彼女は絶望的な状況に直面します。それでも、いねは馬を愛し続け、その存在が彼女を支えて行きます。

冬を乗り越えた春、ついに馬が仔馬を出産し、いねは喜びに満ち溢れます。しかし、家族の事情から仔馬を市場に売らなければならず、いねは涙を呑んでこれを受け入れます。彼女は女工として働き、たった一頭の仔馬を取り戻すために全力を尽くします。

クライマックスとテーマ

物語のクライマックスで、いねの丹精込めた馬が高値で売れ、ついに軍馬として御用となります。彼女と家族の悲しみと喜びが交差する瞬間が観客に強い感動を与えます。物語は、馬という存在を通じて愛や希望、苦悩を描き出し、人間と動物の絆の大切さを伝えています。

制作の背景

本作の制作背景には、当時の軍策略に沿った思惑がありましたが、作品全体にはその要素は薄いとされています。山本監督は1938年に岩手で行われた馬の競り市の音をラジオで聴いたことがきっかけとなり、映画の制作を決意しました。また、撮影を率いる黒澤明は、当時多忙を極めており、脚本のリライトや編集も彼が担当することとなっています。これによりブラック・バリー（黒澤が得意としたリリックな演出）が随所に見られ、後の彼の作品に影響を与えました。

エピソード

撮影を通じて、主演の高峰秀子と黒澤明の恋愛が生まれました。高峰は自身の自伝の中でこの期間を振り返り、複雑な人間関係や状況を細かく記述しています。この作品は、その後の黒澤作品への道を開く重要な一作となりました。

作品『馬』は、日本映画の中でも特に豊かな感情表現とストーリーテリングで人々の記憶に残る作品として知られ、以後も多くの映画ファンに愛され続けています。

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