馬痘

馬痘(ばとう)



馬痘は、馬に特有の皮膚病変を引き起こすポックスウイルスによる感染症の一種です。特に、馬痘ウイルス(horsepox virus)が狭義の馬痘を引き起こす要因とされています。この病気は、19世紀から20世紀初頭にかけてヨーロッパで流行していましたが、現在ではその発生は確認されていません。

原因


馬痘の主な原因となるウイルスには、馬痘ウイルスのほかにウアシン・ギシュウー病を引き起こすウアシン・ギシューウイルス(Uasin Gishu virus)や、伝染性軟疣腫を引き起こす伝染性軟疣腫ウイルス(Molluscum contagiosum virus)があります。これらのウイルスはポックスウイルス科(Poxviridae)に分類されており、馬痘ウイルスとウアシン・ギシュウーウイルスはオルソポックスウイルス属(Orthopoxvirus)に、伝染性軟疣腫ウイルスはモラスキポックスウイルス属(Molluscipoxvirus)に属しています。

日本では、これらのウイルスに基づく馬痘は家畜伝染病予防法において届出伝染病として指定され、対象動物は馬に限られています。近年、ウアシン・ギシュウー病や伝染性軟疣腫の馬への感染例は報告されていますが、これらの病気は稀であり、日本国内での馬痘の具体的な報告はありません。

症状


馬痘にかかると、皮膚にさまざまな病変が見られます。これには表皮の変化、空胞変性、細胞質内の封入体の形成、痂皮(かさぶた)の形成などが含まれます。症状はウイルスの種類によって異なります。

馬痘ウイルス


最初に丘疹が現れ、次第に水疱、膿疱、粘液性の分泌物、そして痂皮が形成されます。痂皮が剥がれ落ちると出血斑が見られることもあります。馬痘ウイルスには、発生部位に基づいて口腔型や潤滑油型の二種類があります。口腔型は口腔、口唇、鼻、眼瞼などに発生し、潤滑油型は主に両方の足の間に現れ、疼痛を引き起こすため馬が跛行します。

ウアシン・ギシューウイルス


このウイルスは顔面や頚部、背部、腹部、後躯に乳頭腫のような皮膚病変を引き起こします。

伝染性軟疣腫ウイルス


このウイルスも丘疹を形成し、顔面や胴体、外部生殖器に粘液性の分泌物を伴います。

症状の重篤度はウイルスによって異なり、馬痘ウイルスに感染した若い馬は重症化して死亡する可能性がありますが、多くの場合は2〜4週間で回復します。しかし病変が瘢痕として残ることがあります。対照的に、伝染性軟疣腫は急速に進行せず、重症度や伝染性も低いです。

鑑別方法・治療


馬痘を疑う症例に対しては、抗体検査やウイルス確認のための病原学的検査が行われます。しかし有効な予防策は存在せず、感染が確認された場合は対症療法や二次感染の予防に努めることが求められます。

このように、馬痘は馬に特有の厄介な感染症であり、現代においてもその重要性が確認されています。

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