駅馬車 (1939年の映画)

映画『駅馬車』：西部劇の傑作、人間ドラマの金字塔

1939年に公開されたジョン・フォード監督による映画『駅馬車』は、西部劇の枠を超えた不朽の名作として、映画史にその名を刻んでいます。アーネスト・ヘイコックスの短編小説を基に、ダドリー・ニコルズが脚本を手掛けました。ジョン・ウェイン、クレア・トレヴァー、トーマス・ミッチェルら豪華キャストが、それぞれの役を深く演じています。

作品概要

本作は、単なる西部劇ではなく、駅馬車に乗り合わせた様々な背景を持つ人々の人間模様を描いた群像劇です。物語は、アパッチ族の襲撃という危機的状況の中で、登場人物たちの本質が露わになる様子をスリリングに描いています。大胆なクローズアップや、ヤキマ・カヌートによるスタントは、観る者を圧倒的なアクションシーンへと引き込みます。

特に、主演のジョン・ウェインにとって、この作品は、無名時代からの脱却と大スターへの飛躍を決定づけた重要な作品となりました。ジョン・フォード監督は、本作以降、ウェインを自身の作品に起用し、二人は映画史に残る数々の名作を共に作り上げることになります。

1995年には、アメリカ国立フィルム登録簿に登録され、その文化的価値が認められました。

ストーリー

1880年代のアリゾナ、ジェロニモ率いるアパッチ族の蜂起の噂が広がる中、トントからローズバーグへ向かう駅馬車が出発します。その乗客は、町を追われた娼婦ダラス、アルコール中毒の医者ブーン、騎兵隊大尉の妻ルーシー、小心者の酒商人ピーコック、そして南部出身の賭博師ハットフィールドなど、一癖も二癖もある人物ばかりです。

出発後間もなく、脱獄囚のリンゴ・キッドが現れ、駅馬車に乗り込んできます。保安官カーリーは、リンゴが父と兄弟を殺害したプラマー兄弟に復讐するためにローズバーグへ向かうことを予期し、彼を逮捕します。しかし、リンゴを逮捕したのは、かつてリンゴの父親と牧童仲間であり、彼を実の息子のように案じていたカーリーなりの優しさでもありました。

旅路の途中、駅馬車はアパッチ族の襲撃を受けます。この襲撃シーンは、映画史に残るアクションシーンとして、多くの観客を魅了しました。

また、道中では、乗客たちの人間ドラマが展開されます。特に、ダラスとリンゴの間に芽生える淡い恋心、そして医者ブーンがアルコール依存から立ち直ろうとする姿は、観る者の心を揺さぶります。

ローズバーグに到着後、リンゴはプラマー兄弟との決闘に挑みます。一瞬の銃撃戦の後、見事復讐を果たしたリンゴは、ダラスと共に新たな人生を歩み始めるのでした。

キャスト

リンゴ・キッド：ジョン・ウェイン
ダラス：クレア・トレヴァー
ブーン医師：トーマス・ミッチェル
カーリー保安官：ジョージ・バンクロフト
* ハットフィールド：ジョン・キャラダイン

製作の背景

ジョン・フォード監督は、本作の企画を大手映画会社に持ち込むも、当時衰退していた西部劇というジャンルであったため、相手にされませんでした。そこで、独立プロダクションを設立し、低予算ながらも製作にこぎつけました。出演料も安かったものの、トーマス・ミッチェルやジョン・キャラダインといった実力派俳優が集結し、作品のクオリティを高めることに貢献しています。

撮影は、ユタ州モニュメント・バレーで行われました。この場所は、フォード監督のお気に入りのロケ地となり、以降の作品でもたびたび使用されています。

また、撮影隊は、モニュメント・バレーに住むナバホ族をエキストラとして雇い入れ、彼らの生活を助けました。このエピソードは、フォード監督の人間性を示すものとして語り継がれています。

公開後の評価

1939年2月の公開後、批評家から絶賛され、興行的にも大成功を収めました。アカデミー賞では、7部門にノミネートされ、助演男優賞と音楽賞を受賞しました。作品賞は逃したものの、映画史に残る名作として、今もなお多くの映画ファンを魅了し続けています。

日本の映画評論家、淀川長治は、本作の宣伝を担当した際、その熱意が評価され、後日、製作者のウェンジャーからサイン入りの銀時計を贈られています。

映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では、批評家からの評価が100％と非常に高く、その評価は現在も揺るぎないものです。

作品の与えた影響

『駅馬車』は、その後の映画界に大きな影響を与えました。特に、西部劇というジャンルにおいて、本作は一つの基準点となり、多くのフォロワー作品を生み出しました。

また、オーソン・ウェルズは、自身のデビュー作『市民ケーン』の製作にあたり、本作を何度も鑑賞し、研究したと伝えられています。

漫画家の赤塚不二夫も、幼少期に本作を観たことが、漫画家を志すきっかけになったと語っています。

将棋の世界では、「駅馬車定跡」と呼ばれる戦法が知られています。これは、本作のラストシーンのように、駒が次々と中央に集まる様子から名付けられました。

現在の視聴について

現在、『駅馬車』は、デジタルリマスター版やカラー化されたソフトも発売されており、様々な形で視聴することができます。映画ファンはもちろん、多くの人に観ていただきたい作品です。

まとめ

『駅馬車』は、西部劇というジャンルを超え、人間の普遍的な感情を描いた不朽の名作です。ジョン・フォード監督の演出、ジョン・ウェインをはじめとする俳優たちの熱演、そしてスリリングなアクションシーンは、観る者を魅了してやみません。まだ観たことがないという方は、ぜひ一度、この映画史に残る傑作に触れてみてください。

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