駐英イラン大使館占拠事件

駐英イラン大使館占拠事件

1970年代末から1980年代初頭にかけて、イラン国内外では政治的不安定が続いていました。その中でも特に注目される事件が1980年4月30日にイギリス・ロンドンで発生した駐英イラン大使館占拠事件です。この事件は6名の反ホメイニ派のイラン人テロリストにより引き起こされ、国内外に大きな衝撃を与えました。

事件の発生

事件は1980年4月30日午前11時半頃、ロンドンのプリンセスゲートに位置する駐英イラン大使館で発生しました。テロリストグループは「アラブ自由と民主革命運動（DRMLA）」を名乗り、イラン国内での逮捕と監禁から解放を求める91名の同志の解放を要求しました。襲撃によってイラン人の報道官とアルバイト従業員の2名が命を落としました。テロリストたちは、要求が受け入れられない場合、30分毎に人質を殺害すると脅迫しました。

グループのリーダーであるサリムことオウン・アリ・モハメドは、要求を通すためには恐怖心を持たせることが重要と考えていたようです。

交渉と膠着状態

事件発生から数日間は膠着状態が続きましたが、テロリストたちは人質の命を盾に交渉を進めることを選びました。3日目には、ロンドン警視庁の交渉人が食料やタバコを供給する際にテロリストと話し合い、最初の要求を撤回させるに至ります。代わりに駐英アラブ諸国の大使3名との面会とヒースロー空港からの安全な脱出を要求するようになりました。

後にBBCが「DRMLA」の声明を発表することに同意した結果、2名の人質が解放されることとなりました。この過程で、交渉が少しずつ進展するかに見えましたが、状況は急変しました。

突入と解放

5月5日、事件6日目にテロリストは人質1名を殺害し、その遺体を玄関に投げ捨てました。この行為を重く見たロンドン警視庁は、現場の指揮をイギリス陸軍SASへ譲渡しました。突入作戦の準備が整い、遂に「ニムロッド作戦」が決行されました。警察犬トレーナーが事前に準備したロープを利用して、特殊部隊がバルコニーから懸垂降下する形で突入しました。

突入の際、犯人による動きがあり人質1名が射殺されましたが、SASは果敢に突入し、テロリスト5名を撃ち取ることに成功しました。結果として人質26名は解放されました。この様子はBBCでも大きく取り上げられました。実は解放された人質の中には、BBCの記者も含まれていました。

事件後の影響

この事件はイランの政治動向や国際的なテロに対する対策に大きな影響を与えました。特に、SASが使用したH&K MP5サブマシンガンは、その後の対テロ作戦において著名な存在となりました。イランのテヘランでは、アメリカ大使館が反体制勢力に占拠され続けており、同年4月25日のアメリカによる人質救出作戦（イーグルクロー作戦）は失敗に終わりました。

唯一生き残った犯人は、同情した人質の助けを借りて大使館から逃走しました。この事件において、特殊部隊は犯人を生け捕りにするのではなく、危険を排除する方針で行動したため、射殺という選択をしました。

犯人は逮捕され無期懲役が言い渡されましたが、2005年には仮釈放となりました。この事件はイギリスにおけるテロリズム対策の一端を示すものであり、様々なメディアでも取り上げられています。たとえば、BBCの記者ケイト・エイディは2002年に『The Kindness of Strangers』を出版し、この事件に関するドキュメンタリーや映画も製作されています。映画『ファイナル・オプション』や『6日間』は、この事件を題材とした作品として知られています。

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