高井としを

高井としを

高井としを（1902年10月26日 - 1983年11月9日）は、日本の労働運動家として知られています。彼女は、文筆家である細井和喜蔵の事実婚上の妻であり、細井の代表作『女工哀史』の成立に深く関わりました。自身の女工としての経験を細井に伝え、当時の女工たちの過酷な労働環境の実態を社会に訴える上で、重要な役割を果たしました。

生い立ちと労働運動への目覚め

高井としをは、岐阜県揖斐川町東津汲の貧しい家庭に生まれました。小学校にはわずか3か月しか通うことができず、10歳という若さで紡績工場で働き始めました。当時の労働環境は劣悪で、長時間労働にも関わらず、生活費を除くとほとんどお金は残りませんでした。粗末な食事と過酷な労働条件から、栄養失調や病気になる人が後を絶ちませんでした。

1920年、高井としをはストライキの現場で、労働者同士の団結や平等、生活の向上を訴えるビラを目にしました。その内容に感銘を受け、所持品を売り払って上京し、東京モスリン亀戸工場に入社しました。そこで読書に励み、積極的にストライキに参加するなど、労働運動に身を投じるようになりました。これが、彼女の生涯をかけた労働運動の始まりでした。

細井和喜蔵との出会いと『女工哀史』

1921年、ストライキを通じて細井和喜蔵と出会い、同棲を始めました。病弱で職を失った細井を支える傍ら、女性しか立ち入れない工場寄宿舎での出来事や女工たちの考えを細井に語り、『女工哀史』の完成に向けて協力しました。高井としをの実体験に基づいた情報は、『女工哀史』に大きな影響を与え、作品のリアリティを高める上で不可欠でした。

1925年に『女工哀史』が完成すると、その内容は社会に大きな反響を呼びました。しかし、完成直後に細井は死去。高井としをは細井の子を身ごもっていましたが、細井を失ったショックと疲労から早産となり、子供は夭折しました。さらに、「『女工哀史』の著者の妻」と見なされたことで就職が困難になり、事実婚であったため、著作権を引き継ぐこともできませんでした。

その後の人生

1927年、高井としをは大阪で活動家の高井信太郎と結婚し、特高警察の監視を受けながらも働き続けました。戦後の1946年に夫と死別した後も、5人の子供を育てながら懸命に働きました。1951年には、兵庫県で伊丹地方自由労働組合の委員長を務め、労働現場での差別をなくすための運動を続けました。

高齢のため労働から退いた後、自伝『わたしの女工哀史』を著し、女工時代の体験や細井との出会いと別れ、その後の生活を綴りました。その中で、「私は働くのが大好きです。だけど昔から差別されるのが大嫌いです」と訴えました。晩年には、「石にかじりついても生きてはいけないけれど、仲間の手はしっかりと握って離さないつもりで生き抜いてきた」と語っています。1983年11月9日、81歳でその生涯を閉じました。

高井としをの生涯は、困難に立ち向かいながらも、労働者の権利と差別のない社会の実現を追求したものでした。彼女の思想と行動は、現代においても私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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