細井和喜蔵

細井和喜蔵

細井和喜蔵（1897年5月9日 - 1925年8月18日）は、日本の文筆家であり、プロレタリア文学の先駆者として知られています。京都府与謝郡加悦町（現在の与謝野町）で生まれ、短い生涯の中で、社会の矛盾と貧困にあえぐ人々の姿を鋭く描き出しました。

生涯

幼少期に両親との離別、13歳での祖母の死という不幸に見舞われ、学業を断念せざるを得ませんでした。丹後ちりめんの機屋で小僧として働き始め、その後大阪の紡績工場で織機の見習い職工となります。この頃から労働運動に関わるようになり、社会変革への意識を高めていきました。

1920年に上京し紡績工場に勤務しますが、労働運動における「アナ・ボル論争」を機に、運動から距離を置くようになります。しかし、この時期に雑誌『種蒔く人』の同人と知り合い、文学への道を志すことになります。

1924年、藤森成吉の斡旋により、紡績工場の過酷な現実をルポルタージュとしてまとめた『女工哀史』を雑誌『改造』に発表。翌1925年には改造社から単行本として刊行され、大きな反響を呼びました。この作品は、細井自身の工場での労働経験、古老からの聞き取り、妻である高井としをの体験、そして彼女との議論を通して、多角的な視点から描かれています。

『女工哀史』完成後、小説版として『奴隷』と『工場』の原稿を書き上げましたが、推敲の機会を得ることなく、1925年8月18日に急性腹膜炎により28歳という若さで亡くなりました。

妻の高井としをは、『女工哀史』の執筆を支え、内容の多くを提供しましたが、細井の死後、長男も生後間もなく亡くなり、印税を受け取ることはありませんでした。

死後

細井の死後、自伝的な長編小説『奴隷』と『工場』が改造社から刊行されました。『女工哀史』とこれらの作品の印税は、東京の青山霊園に建立された〈解放運動無名戦士墓〉の基金となり、現在も日本国民救援会によって管理され、毎年3月18日（パリ・コミューン記念日）に追悼祭が行われています。

主要作品

女工哀史: 紡績工場で働く女性たちの過酷な労働環境と悲惨な生活を描いたルポルタージュ。細井の代表作であり、プロレタリア文学の重要な作品として評価されています。
奴隷: 細井自身の幼少期から青年期にかけての体験を基にした自伝的小説。貧困と差別に苦しむ人々の姿を描いています。
工場: 紡績工場を舞台に、労働者たちの生活と闘いを描いた長編小説。

細井和喜蔵の作品は、当時の社会の矛盾を鋭く告発し、社会変革を求める人々に大きな影響を与えました。彼の作品は、現代においても、貧困や格差の問題を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

関連人物

藤森成吉
* 高井としを

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