高周波焼入れ

高周波焼入れ（Induction Hardening）

高周波焼入れは、鋼材を高周波の電磁波を利用して加熱し、表面のみを硬化させる熱処理の方法です。この手法により、鋼の表面硬度が向上し、内部は元の柔軟性を維持することができます。一般的に、焼入れ処理を行った鋼はロックウェル硬さ（HRC）が1～2程度向上しますが、これは鋼の種類によって異なります。

原理

高周波焼入れの基本は、金属に銅線をコイル状に巻き、そこに交流電流を流すことによって生じる電磁誘導にあります。この過程で、金属内に渦電流が発生し、その電流は表皮効果によって表面付近に集中します。電流が流れることで、金属の電気抵抗によるジュール熱が生成され、金属表面をオーステナイト化するまで加熱します。

急冷処理を行うことで、硬化効果が得られますが、焼入れ後は靭性が低下するため、焼戻し処理が必要です。一般に150～200℃の低温で焼戻しを行うことで、靭性が回復します。この一連の流れを「高周波焼入れ焼戻し」と呼ぶこともあります。

高周波焼入れは主に表面処理に利用されることが多く、内部まで熱処理することは稀です。表面でしか渦電流が発生しないため、金属の中心部まで熱を伝えるには時間を要します。しかし、内部硬化も可能であり、特定の状況下では金属全体を焼入れすることもあります。

主な構造

交流電源

高周波焼入れには高圧および高周波数の交流電源が不可欠です。この電源は主に電子管式やトランジスタインバータ式のものが用いられます。これにより、高周波数の電流をコイルに供給し、強力な磁場を作り出します。

コイル

加熱のためのコイルには、交流電流を流し磁界を発生させる役割があります。流す周波数や電流の大きさ、時間は、焼入れの深さや金属の性質に依存します。周波数を高くすることで表面硬化が促進され、逆に低くすることで内部までの焼入れが可能になります。コイルの冷却も重要で、主に水冷が用いられます。

コイルの形状は、加工する金属の形状に合うように設計され、外面コイルや内面コイルなど様々な種類があります。

適用材料

この加熱処理は非磁性体には適用できず、一般的に機械構造用の炭素鋼や低合金鋼に用いられます。炭素量が指定されている基準を満たす必要があり、通常は中炭素鋼以上が対象です。高周波焼入れは急速加熱が行われるため、炭素の拡散が不十分となることがありますが、高温焼戻しによって効果を最大化できます。

長所と短所

長所

• - 簡便な調整: 焼入れ深さはコイルに流す交流の周波数を変更することで簡単に調整できます。
• - 短時間処理: 短時間で処理が行えるため、効率的です。
• - 硬化層が深い: 他の表面硬化と比較して、深い硬化が可能です。

短所

• - 大きな材料の難しさ: 大型の材料には高出力な電源が必要であり、設備費がかさみます。
• - 複雑な形状の処理: 入り組んだ形状だと、均一に熱が伝わらないため適していません。

以上の理由から、高周波焼入れは比較的小型の製品に適しており、特に軸や歯車、平板の製造に広く使われています。

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