高嶺徳明

高嶺 徳明（たかみね とくめい）

高嶺徳明は、琉球王国が独立国として栄えた時代、具体的には1653年3月14日（順治10年2月15日）に生まれ、1738年3月5日（乾隆3年1月15日）に没した人物です。彼は琉球王国の外交官であると同時に医師でもありました。久米村（現在の沖縄県那覇市久米地域）に生まれ、唐名を魏 士哲（ぎ してつ）、童名を思五良、号を希賢と称しました。公式な呼び名は高嶺親方徳明と記録されています。

外交官としての活躍

徳明は中国語に非常に堪能であったため、その語学力を活かして琉球王府に仕えました。中国の福州へ渡航した経験を持ち、帰国後は琉球王府の中国語通事として、重要な外交実務に従事したとされています。当時の琉球王国にとって、中国との関係は政治的・経済的に極めて重要であり、通事の役割は非常に大きなものでした。

医師としての功績

外交官としての活動の傍ら、徳明は医師としても優れた才能を発揮しました。中国滞在中、彼は現地の医師である黄会友のもとで、口唇裂（いわゆる「みつぐち」）を修復する外科手術である補唇術を深く学びました。この技術を習得して1689年5月に琉球へ帰国した後、同年11月20日には、当時の琉球王の孫にあたる尚益（しょうえき）に対し、学んだばかりの補唇術による外科手術を施し、見事に成功させました。この手術は、当時の琉球において非常に高度な医療技術を用いた特筆すべき事例として、彼の名声を高めることとなりました。

全身麻酔手術の可能性

高嶺徳明による尚益への口唇裂手術に関して、後世の研究者である沖縄学者の東恩納寛惇（ひがしおんな かんじゅん）や金城清松（きんじょう せいしょう）といった人々は、その手術が全身麻酔を施した上で行われた可能性を指摘しています。もし、この指摘が史実として確認されれば、これは日本の歴史上における全身麻酔を用いた外科手術の最初期の例の一つとなり、医学史においても非常に重要な発見となるでしょう。しかしながら、現段階ではこの手術に全身麻酔が実際に使用されたことを明確に裏付ける史料の確証は得られておらず、あくまで可能性としての「説」として扱われている点には注意が必要です。

華岡青洲との関連にまつわる説

また、東恩納寛惇は、高嶺徳明がこの補唇術に関する秘伝書を残したという説を提唱しています。この説によれば、その伝授書は後に伊良子道牛（いらこ どうぎゅう）の手に渡り、さらに道牛からその弟子である華岡青洲（はなおか せいしゅう）へと譲り渡されたとされています。青洲は伝授を受ける際に、その秘術を他言しないという誓約を求められたと伝えられていますが、後にその誓いに反し、自らの名のもとにこの補唇術の秘術や、それに関連する知識・技術を広く公開した、という内容です。この説は、日本で初めて全身麻酔を用いた外科手術を行った人物として知られる華岡青洲と、琉球の高嶺徳明を結びつける興味深い伝承ですが、これもまた確証のある史実とは見なされておらず、一つの学説や伝承として理解されるべきものです。

高嶺徳明は、激動の時代に琉球王国の外交を支える重要な役割を果たしただけでなく、当時の最先端ともいえる外科医療技術を導入し、王孫の病を治癒させた医師としても、その功績は高く評価されています。全身麻酔や華岡青洲との関連については今後のさらなる史料研究が待たれるところですが、17世紀後半の琉球において、外交と医学の両面で顕著な業績を残した人物として、その名は歴史に記されています。

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