高橋五郎

高橋 五郎

日本の中国研究農学者として知られる高橋 五郎氏は、1948年に生まれました。愛知大学にて長年教鞭を執り、現代中国学部教授や大学院中国研究科教授・研究科長を歴任。現在は愛知大学名誉教授、国際中国学研究センターフェロー（元所長）、愛知大学国際問題研究所名誉研究員を務めています。中国の農村経済学、そして中国、アジア、日本の食料問題が主な専門分野です。

学歴と研究への道のり

新潟県に生まれた高橋氏は、愛知大学法経学部経済学科を卒業しました。その後、千葉大学大学院自然科学研究科に進学し、1991年には農学博士の学位を取得しています。博士論文「農業生産協同組合への論理構造」では、スターリン型旧ソ連・東欧型や中国の人民公社といった、当時の社会主義圏における教条的な生産協同組合論や思想に対して、論理的な批判を展開しました。特に、土地の国有という考え方に疑問を呈し、土地は「私的かつ類的所有」であるべきという独自の主張を展開しています。

高橋氏が中国研究に関心を持った原点は、中高生時代を過ごした新潟での経験に遡ります。当時は北京放送の日本語放送がよく聞こえ、毎夜その放送を通じて、文化大革命へと進む中国の様子や、「アメリカ帝国主義は張子の虎である」と繰り返す中国人女性アナウンサーの日本語に触れ、強い印象を受けました。また、愛知大学では、前身校である東亜同文書院大学から引き揚げてきた多くの教員から、中国の具体的な実態や背景について、臨場感あふれる学びを得たことが、その後の研究活動の基礎を築きました。

研究対象と独自の方法論

高橋氏の研究は、一般的な意味での「中国研究」とは一線を画しています。彼自身が語るように、その対象は「中国における農業・農村・農民および食料社会・経済問題」に特化しており、中国そのものを研究するのではなく、あくまで研究の「舞台」として捉えるという独特の方法論を持っています。これにより、中国国内で農作物がどのような環境（農地、農民）のもとでどのように生産されているかといった、農業の実態に深く焦点を当てることが可能になります。この視点から、国や地域を比較する農業研究の重要性を痛感し、日本全国はもとより、中国各地、アジア、欧米、オセアニアなど、世界各国の農村を精力的に歩き、広範な実態調査を重ねてきました。こうした現場での徹底した調査こそが、高橋氏の研究の核となっています。

研究の背景には、土地制度論の磯部俊彦氏、齋藤仁氏、土地合体資本論の旗手勲氏、そして協同組合理論において近藤康男氏らを批判的に継承し独自理論を構築した三輪昌男氏、竹中久二夫氏といった先駆的な研究者からの学びがあります。また、現代中国研究の方法論にも関心を寄せ、加々美光行氏らと共に「現代中国学」構築を目指す研究活動に参加し、毛里和子氏や朱建栄氏といった現代中国政治論の専門家からも多くを学んでいます。

国際的な活動と影響力

高橋氏は、中国の主要大学や研究機関が主催する国際シンポジウムに頻繁に招かれ、講演や討論を行っています。また、農村経済調査や都市住民の食生活状況調査のため、毎年複数回中国を訪問するなど、現場での調査活動を非常に重視しています。これらの活動を通じ、中国を含むアジア全体、そして日本の農業・食品問題や経済状況を多角的に分析し、農民や消費者の実践的な利益に資する活動にも参加しています。

海外への渡航経験も豊富で、アジア諸国をはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど、数多くの国や地域を訪れています。海外の研究者とのネットワークも広く、各国の友人と共に欧米や東南アジアで調査を行う機会も少なくありません。中国国内には、高橋氏が指導し、現在一流大学や政府機関で活躍する研究者も多数おり、中国に高橋ゼミの同窓会組織が存在することからも、その教育者としての国際的な影響力がうかがえます。

主な著作

数多くの著書や論文を発表し、中国農業・食料・経済問題に関する分析を展開しています。

『農家の借金』（農文協 1987年）
『生産農協への論理構造』（日本経済評論社 1993年）
『農民も土も水も悲惨な中国農業』（朝日新書 2009年）
『日中食品汚染』（文春新書 2014年）
『デジタル食品の恐怖』（新潮新書 2016年）
『中国土地私有化論の研究』（日本評論社 2021年）
『中国が世界を牛耳る１００の分野 日本はどう対応すべきか』（光文社新書 2022年）

その他、多数の論文や評論、書評などがあります。

所属学会

留美中国経済学会（国際学会）
中国経済経営学会（日本国内学会）
アジア政経学会（日本国内学会）

高橋五郎氏の研究は、徹底したフィールドワークに基づく実態把握と、理論的な考察の融合により、複雑な中国の農業・農村・食料問題に深い洞察を提供しています。その独自の研究方法論と国際的な活動は、この分野における重要な貢献を示しています。

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