高橋氏文

高橋氏文（たかはしうじぶみ）は、日本の古代史を研究する上で重要な史料となる古記録です。

この記録は、宮内省の内膳司に仕えていた高橋氏が、同じく朝廷に仕えていた安曇氏と勢力争いを繰り広げた際に、自らの正当性を主張するために、朝廷に提出した家記が原本であると考えられています。具体的には、789年（延暦8年）に奏上されたとされています。

残念ながら、高橋氏文の完本は現在まで伝わっていません。しかし、その一部は他の文献に引用される形で残っており、今日までその存在を知ることができます。例えば、『本朝月令』、『政事要略』、『年中行事秘抄』などの文献に、高橋氏文からの逸文が確認されています。これらの逸文を詳細に分析することで、高橋氏文の内容をある程度推測することが可能です。

江戸時代後期の国学者、伴信友は、1842年（天保13年）に『高橋氏文考註』を著し、高橋氏文の研究に大きく貢献しました。この著作には、伴信友自身の序文が加えられており、彼の研究への情熱が伝わってきます。さらに、791年（延暦11年）には、高橋氏文の内容に関する太政官符が存在することが確認されており、高橋氏文が当時の朝廷においても重要な文書として扱われていたことがわかります。

高橋氏文には、古代の伝承や氏族の系譜などが記録されていたと考えられます。特に、高橋氏が内膳司として朝廷の食膳を司っていたことから、食文化に関する記述も含まれていた可能性が指摘されています。高橋氏文に登場する人物として、磐鹿六鴈（いわかむつかり）が知られています。彼は、古代の伝説的な人物であり、高橋氏との関係が深く、高橋氏文の中で重要な役割を果たしていたと考えられます。

また、稲荷山古墳から出土した鉄剣には、「多加披次獲居」（タカハシワケと読める）という銘が刻まれており、この銘が高橋氏と関連がある可能性も指摘されています。このように、高橋氏文は、古代史の様々な側面に光を当てる可能性を秘めた重要な史料であると言えます。

高橋氏文の研究は、現在も継続的に行われており、新たな発見が期待されています。特に、逸文の収集や分析が進むことで、高橋氏文の全体像がより明確になることが期待されます。参考文献として、『高橋氏文注釈』（上代文献を読む会編、翰林書房、2006年）が挙げられます。この書籍は、高橋氏文の研究に不可欠な文献です。

高橋氏文は、日本の古代史を理解する上で欠かせない史料であり、今後の研究がますます重要になると考えられます。

参考文献
『高橋氏文注釈』 上代文献を読む会編、翰林書房、2006年。ISBN 4-87737-220-2。

関連項目
歴史書一覧
磐鹿六鴈
稲荷山古墳出土鉄剣

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