高瀬将敏

高瀨 将敏

高瀨 将敏（たかせ まさとし、1923年7月21日 - 1992年1月28日）は、日本の映画およびテレビドラマにおいて、殺陣や現代アクションの演出・指導で大きな足跡を残した人物である。特に現代劇における格闘シーンを指す造語「技斗」の考案者として知られ、その後の映像業界に多大な影響を与えた。愛知県名古屋市の出身。

経歴と思想

劇場経営を手がける博徒の家系に生まれた高瀨は、幼い頃から身近にあった剣劇映画に強い影響を受けた。この経験が、後に彼の人生を方向付けることになる。

1937年、まだ10代だった高瀨は市川右太衛門プロに入社し、殺陣師・市川桃栗に師事してこの道を歩み始めた。その後、右太衛門プロの後身である全勝キネマに所属し、結貴昌三郎という芸名で俳優としても活動していた時期がある。

1941年には上京し、大都映画に移籍するが、間もなく太平洋戦争により応召される。戦後、復員した彼は、しばらく実演での地方巡業を経て、1951年に東映東京撮影所に入所する。

東映在籍中の1953年、『魚河岸の石松シリーズ』では出演者としてだけでなく、格闘シーンの振り付けも担当した。この仕事を通じて主演の河津清三郎と親交を深め、互いの妻が姉妹という関係から、義兄弟の間柄となった。

日活での「技斗」確立

翌1954年、映画製作を本格的に再開した日活撮影所に、高瀨は義弟である河津清三郎と共に移籍する。当時の日活は、現代的な感覚を取り入れたアクション映画を主要なラインナップとし始めており、高瀨はその中で格闘シーンの振り付けという重要な役割を一手に引き受けることとなる。

この時期、高瀨は従来の時代劇における「殺陣」とは異なる、現代劇での素手や生活道具を使った格闘表現を区別する必要性を感じていた。そこで、彼は「演技」と「格闘」という言葉を組み合わせた「技斗（ぎとう）」という新しい名称を考案する。この「技斗」という呼称は、彼の仕事と共に日活の枠を超えて広まり、その後、現代アクションや刑事ドラマなどのクレジットとして定着していくことになる。

1959年には、日活俳優クラブの中に技斗部を設立。石原裕次郎、小林旭、宍戸錠、二谷英明といった、当時の日活を代表するスターたちの技斗指導にあたり、彼らのスクリーンでの魅力を引き出し、日活のアクション路線を力強く支えた。また、峰三平や渡井嘉久雄といった後進の育成にも尽力している。これらの功績は高く評価され、1960年の映画『都会の空の用心棒』における技斗構成に対して、撮影所長賞を受賞した。

高瀬道場の設立と晩年

1971年、日活が一般映画の製作を中断したことに伴い、高瀨は同社を退社する。しかし、そこで彼の情熱が尽きることはなかった。同年、日活撮影所にもほど近い東京都府中市に、彼は自身の名を冠した稽古場「高瀨道場」を創立する。

高瀨道場は、時代劇の殺陣だけでなく、彼が確立した現代劇のアクション、すなわち技斗を専門に指導する場として、俳優たちが演技に必要な身体技術を学ぶために広く門戸を開放した。多くの俳優がここで研鑽を積み、彼の技術と思想を受け継いでいった。

フリーランスとして活動を続ける傍ら、高瀨はテレビドラマの世界にも活躍の場を広げる。特に、日活時代の盟友であった二谷英明からの招請を受け、人気テレビドラマシリーズ「特捜最前線」の技斗を長年にわたり担当した。このシリーズにおけるリアルかつダイナミックな格闘シーンは、多くの視聴者に強い印象を残した。

晩年、高瀨は「特捜最前線」での役割をはじめ、自身の仕事を実子の高瀬将嗣に譲っていった。そして、1992年1月28日、享年68でその生涯を閉じた。彼が創立した高瀨道場は、息子の高瀬将嗣が継承し、現在も多くの俳優たちが集う稽古場としてその活動を続けている。高瀨将敏の墓所は多磨霊園にある。

高瀨将敏は、時代劇の「殺陣」と現代劇の「技斗」という二つの領域において、日本の映像表現の礎を築いた革新者であり、多くのスターや後進を育てた偉大な指導者であったと言えるだろう。彼の考案した「技斗」という言葉は、今なお日本の映像業界で広く使われ、その功績は語り継がれている。

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