全勝キネマ

全勝キネマ株式会社とは

全勝キネマ株式会社は、1936年5月に設立され、1941年1月に興亜映画へ合併した、第二次世界大戦前に存在した奈良県の映画会社です。設立者は、俳優・市川右太衛門の実兄である山口天龍。かつて市川右太衛門プロダクションが所有し、閉鎖していた撮影所を再活用し、数多くの映画を製作しました。

設立の背景

1927年、市川右太衛門プロダクションは奈良県生駒郡伏見村（現在の奈良市あやめ池北）に撮影所を建設しました。しかし、1936年に同プロダクションが松竹に吸収され、市川右太衛門自身も松竹に移籍。これにより、あやめ池撮影所は閉鎖されました。

この閉鎖された撮影所を復活させたのが、右太衛門の兄・山口天龍です。彼は同年5月に資本金20万円で全勝キネマを設立し、映画製作を再開させました。

映画製作の特徴

全勝キネマでは、旧右太プロのスタッフはほとんど採用せず、他社から監督や俳優を積極的に起用しました。監督には、極東映画社から引き抜いた金田繁をはじめ、山口哲平、仁科熊彦、稲葉蛟児などが参加。また、嵐寛寿郎プロダクションの山本松男、日活京都撮影所の志波西果、日活多摩川撮影所の宮田味津三なども迎えました。脚本家だった山田兼則も監督として採用されています。その他、藤本修一郎、大江秀夫、熊谷草弥、橋本松男、姓丸浩、佐藤樹一郎、小林二三夫などが作品を手掛けました。

主演俳優には、旧右太プロから市川松之助や実川童が参加。さらに、片岡千恵蔵プロダクションや阪東妻三郎プロダクションで活躍した杉山昌三九を主演に抜擢。大河内龍は全勝キネマのスターとなりました。

松竹傘下へ

1940年9月、全勝キネマは松竹の傘下に入り、松竹から能勢克男、白井信太郎、城戸四郎らが役員として送り込まれました。1941年1月には、3本の作品を最後に製作を終了し、松竹資本の興亜映画株式会社に合併。あやめ池撮影所は再び閉鎖されました。

全勝キネマは、その短い活動期間中に170本以上の映画を製作しました。特筆すべきは、トーキー時代においても無声映画を作り続け、音声解説は活動弁士によるものだった点です。また、松竹傘下に入る際、それまでのストックプリントは北海道の興行者に売却されました。

フィルモグラフィー（一部）

全勝キネマが製作した主な作品は以下の通りです。

1936年：『間兄弟』、『義憤の血煙』、『血吹雪街道』、『元禄七化け吉三』など15本
1937年：『忍術薩摩城』、『剣聖音無しの構へ 第二篇 地の巻』、『軍国の女神』など29本
1938年：『復讐笑ひの面』、『からくり浪人 花婿合戦』、『まぼろし峠』など37本
1939年：『気紛れ大納言』、『荒武者大進軍』、『音無し片手剣法』など46本
1940年：『昇竜日本晴れ』、『怪猫油地獄』、『奇傑荒獅子』など43本
1941年：『大岡政談 白洲の花嫁』、『嵐の中の剣士』、『尾州三勇士』の3本

関連事項

全勝キネマの撮影所があった場所には、後に近鉄あやめ池遊園地（2004年閉園）や近畿大学附属小学校（2008年移転）が建設されました。また、近隣には菖蒲池駅があります。

参考文献

『日活五十年史』、日活、1962年
『日本映画発達史 III 戦後映画の解放』、田中純一郎、中央公論社、1980年4月17日

関連項目

市川右太衛門プロダクション
興亜映画

外部リンク

Zensho Kinema - IMDb
奈良にゆかりの映画情報 全勝キネマ - 奈良県観光情報

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