高知市歌

高知市歌

高知市歌は、高知県の県庁所在地である高知市に定められた市歌であり、その歴史の中で二つの異なる楽曲が存在します。

初代市歌（昭和14年制定）

初代の高知市歌は、1939年（昭和14年）10月に制定されました。当時の記録によれば、作詞は宮崎廣、作曲は弘田龍太郎とされています。しかし、制定に至る詳細な経緯については、市の公式な歴史書である『高知市史』にも記述が見られず、不明な点が多いままです。同時期に大阪毎日新聞から刊行された『日本都市大観』の昭和15年版には、作詞者と作曲者の名前が記されていますが、その後発行された『高知市勢要覧』の昭和16年版から19年版にかけては、巻頭にこの市歌の歌詞と楽譜が掲載されていたものの、なぜか作詞者である宮崎廣の名前が記載から漏れていました。

この初代市歌の歌詞は、制定された時代背景が第二次世界大戦前という状況にもかかわらず、当時の他の自治体歌に多く見られたような皇国史観に基づいた思想や、戦意を高揚させるようなプロパガンダ的な要素をほとんど含んでいませんでした。この点は、戦前の自治体歌としては比較的珍しい特徴と言えます。しかしながら、多くの地方自治体の歌がたどった運命と同様に、第二次世界大戦の終結を境に、公の場で歌われる機会は失われ、演奏されなくなったと考えられています。

現行市歌（昭和23年制定）

現在、高知市で親しまれている二代目の高知市歌は、戦後復興期にあたる1948年（昭和23年）に制定されました。この市歌は、当時の高知市で開催されることになっていた市民文化祭に合わせて、高知市役所が歌詞を一般に懸賞募集した結果、生まれたものです。作詞は重松富士氏、作曲は平井保喜氏（後の平井康三郎氏）が手がけました。市歌の制定日は1948年3月3日と記録されています。

この新しい市歌が初めて公に演奏されたのは、制定から約2ヶ月後の同年5月5日でした。高知市議会議事堂で行われた市民文化祭の開会式プログラムの一環として披露されたのです。この開会式では、市歌の初演奏に加え、この際同時に選定された「高知市民音頭」も披露されています。以降、この二代目市歌は高知市の公式な歌として引き継がれており、戦後の市勢要覧である『高知市の案内』などにも例年、その歌詞と楽譜が掲載され続けています。

新旧市歌の共通点

時代背景は大きく異なるものの、初代と二代目の高知市歌にはいくつかの興味深い共通点が見られます。例えば、歌詞の各節が「我等の高知」という言葉で力強く締めくくられている点や、最初の節の歌い出しで、高知の地理的特徴や象徴ともいえる「黒潮」が歌い込まれている点は、新旧両曲に共通しています。これは、時代を超えて高知への思いや誇りが、市歌という形で引き継がれていることを示唆しているのかもしれません。

現在、高知市民に親しまれているのは、1948年に制定された二代目市歌であり、市の公式な歌としてその存在が受け継がれています。

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