弘田龍太郎

弘田龍太郎：日本の音楽文化に貢献した作曲家

弘田龍太郎（1892-1952）は、日本の作曲家として、数多くの名曲を残し、日本の音楽文化に多大な貢献を果たした人物です。その生涯は、音楽教育への情熱、洋楽と邦楽の融合への探求、そして子供たちへの深い愛情によって彩られています。

高知県安芸市に生まれた弘田は、一絃琴の名手であった母親の影響を受け、幼い頃から音楽に親しみました。3歳の時に千葉へ転居、その後三重県立第一中学校（現・三重県立津高等学校）を経て、1910年に東京音楽学校（現・東京芸術大学）器学部ピアノ科に入学します。同校では本居長世に師事し、在学中に歌曲『昼』を発表。現在では作者不詳とされている文部省唱歌『鯉のぼり』も、彼の手によるものだとされています。

1914年に東京音楽学校を卒業し助手となりますが、1917年には作曲部に再入学。卒業後も同校で授業補助を務め、文部省邦楽調査委員も務めました。宮城道雄や本居長世らと共に新日本音楽運動に参加し、洋楽と邦楽の融合を積極的に模索するなど、幅広い活動を行っています。

1918年創刊の児童雑誌『赤い鳥』に携わり、「赤い鳥運動」に参加。北原白秋らと協力し、多くの童謡を作曲しました。その作品は、日本の子供たちの心を捉え、現在も歌い継がれています。代表的な童謡には、『叱られて』『金魚の昼寝』『雨』『雀の学校』『春よ来い』『靴が鳴る』などがあり、これらの曲は、世代を超えて愛される日本の音楽文化の重要な一部となっています。

1928年には文部省在外研究生としてドイツに留学、ベルリン大学で作曲とピアノを研究します。帰国後、東京音楽学校教授となりますが、作曲活動に専念するため辞任。その後は作曲活動のかたわら、NHKラジオの子供番組の指導や児童合唱団の指導・指揮、日本音楽著作権協会監事なども務めました。

晩年は長女夫妻が創設した幼稚園の園長となり、幼児教育に音楽を積極的に取り入れ、放送講習会やリズム遊びの指導などにも携わりました。その教育活動は、音楽の持つ教育的な側面を重視し、子供たちの豊かな心を育むことに貢献しました。

彼の作品は童謡にとどまりません。歌曲『千曲川旅情のうた』、オペラ『西浦の神』、仏教音楽『仏陀三部作』、映画音楽『くもとちゅうりっぷ』、そして戦時歌謡『富士は微笑む』（1943年）など、多様なジャンルにわたる作品を残しています。これらの作品は、彼の音楽的才能と幅広い関心の深さを示しています。

作曲活動以外では、『弘田竜太郎作曲子守唄集』、『作曲の初歩』、『新音楽教科書』など、数多くの著書や、『世界音楽全集』の編纂、ペルガー著『楽聖ブラームス』の翻訳など、後進の育成にも尽力しました。

1952年、60歳で逝去。没後も彼の作品は広く愛され続け、日本の音楽史に大きな足跡を残しました。三重県立第一中学校（現・県立津高校）の中庭には、彼の功績を称える記念碑が建立され、『浜千鳥』の楽譜が刻まれています。彼の生涯と作品は、日本の音楽文化発展への貢献を示す、貴重な遺産と言えるでしょう。

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