高輪芳子

高輪芳子：昭和初期の歌姫、情熱と悲劇の生涯

高輪芳子（たかなわ よしこ、1915年3月6日 - 1932年12月12日）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本の歌手です。本名を山田英（ひで、または英子）といい、高輪芳子は芸名でした。彼女は松竹楽劇部を経てムーランルージュ[[新宿座]]の舞台に立ち、『ペチカの歌』などで人気を博しましたが、1932年12月にファッション評論家の中村進治郎と情死を遂げ、17歳という若さでその短い生涯を閉じました。

生い立ちと舞台への道

1915年、高輪芳子は憲兵下士官の父、山田覚吾の元、慶尚北道の尚州で生まれました。父の転勤が多かったため、幼少期は尚州、東京、南満州を転々としました。1925年、一家は佐賀県、そして長崎県へと移り住みますが、乾燥した満州の気候とは異なる日本の湿気が芳子の体質に合わず、軽い胸部疾患と診断され休学を余儀なくされます。その後、病状は一時的に回復しました。

芳子は幼い頃から歌が好きで、音楽学校への進学を希望していました。昭和高等女学校に通いながら、石川啄木の詩集やゲーテの『若きウェルテルの悩み』、夭折の少女詩人清水澄子の遺稿集『さゝやき』などを愛読し、文学に浸る日々を送りました。特に『さゝやき』は彼女の生死観に大きな影響を与え、死への願望を抱くようになります。

1930年、芳子は松竹楽劇部の5期生として入団し、舞台人としてのキャリアをスタートさせました。美しい歌声ですぐに頭角を現し、「松竹楽劇部のプリマドンナ」と評されるほどになりました。しかし、彼女は物思いにふけることを好み、楽屋の薄暗がりにいることが多かったと伝えられています。

人気と苦悩、そして情死

1932年、歌舞伎座での公演『ベラ・フランカ』でスター夢野里子の代役として舞台に立ち、レビューファンから好評を博しました。しかし、松竹楽劇部が「松竹少女歌劇」と改称し、声楽専科を設ける方針に転換したことで、本格的な声楽教育を受けていなかった彼女は将来に不安を覚えるようになります。

さらに、芳子は家庭環境にも問題を抱えていました。実母であるさだ子を「継母ではないか」と疑い、親しい人々に言いふらしていたのです。加えて、婚約者である日本大学の医学生、井川四郎と母さだ子が不倫関係に陥っていることに苦悩しました。

様々な苦悩を抱える中、芳子は同年9月末の舞台を最後に松竹を去り、浅草公園オペラ館のレビュー団「ヤバン・モカル」に加入。そして10月31日、ムーランルージュ[[新宿座]]へ移籍します。ムーランルージュ[[新宿座]]では『ペチカの歌』などを歌い人気を博しましたが、12月6日の公演を最後に姿を消しました。

失踪後、芳子はファッション評論家の中村進治郎と共に新宿のアパートで発見されます。2人は心中を図り、芳子は死亡、中村は一命を取り留めました。彼女の死は、当時の社会に大きな衝撃を与えました。

人物像と影響

高輪芳子は、夭折の詩人清水澄子の詩に魅せられ、自身も詩作を試みていました。作品には「ペシミズムの暗い影」が見られ、彼女の抱える苦悩が表れています。マレーネ・ディートリッヒの大ファンであり、自身のプロフィールがディートリッヒと似通っていることを誇りに思っていました。

彼女の才能に注目していたサトウハチローは、その死を悼み、「レビュー楽屋話し」という文章で彼女を偲びました。高輪芳子の短い生涯は、昭和初期の歌謡界に一瞬の輝きを放ち、今もなお語り継がれています。

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