高野弘正

高野 弘正の生涯と業績

高野 弘正（たかの ひろまさ）は、1900年10月31日に東京で生まれ、日本の剣道界を代表する剣道家です。彼は剣道の正統な流派である小野派一刀流（または小野派一刀流中西派）の宗家であり、剣道範士という称号を持つ優れた剣士でした。高野の剣道家としての道は、父高野佐三郎のもとで始まりました。6歳から剣術を学び、後に小野派一刀流を受け継ぐことになります。彼は小野派一刀流の中西子定から数えて8代目にあたる存在でもあります。

学業と剣道の道

高野は、1918年に旧制日本大学中学校を卒業し、続いて1923年には東京高等師範学校体育科を卒業しました。卒業後は、剣道のさらなる技術向上を目指して、1926年に大日本武徳会から精錬証を授与され、公式に剣道の指導者となりました。

昭和の時代に入ると、高野は早稲田大学に奉職しながら、修道学院を運営し、さらに自身で劇団を設立し主演を務めるなど、多彩な才能を発揮しました。彼の演劇への情熱は強く、多くの劇場を訪れ、その中で自身の劇団を作り上げたことは彼の人生の重要な側面でした。

剣道と演劇の架け橋

高野弘正の生涯で特筆すべきエピソードは、作家・中里介山との関わりです。中里が書いた小説『大菩薩峠』の舞台化に際し、主人公の「秘剣音無しの構え」を高野に考案してもらいました。中里は高野のこの構えに非常に感銘を受け、1935年に映画『大菩薩峠』が制作される際には、高野を主人公の机竜之助役に抜擢するよう日活に要請しました。しかし最終的には、監督の稲垣浩の説得を受け、高野は役者としてではなく剣道指導者として参加する形に落ち着きました。

稲垣は、高野の持つ「蛮勇ぶり」を称賛し、当時の彼がどれほど周囲の者を恐れさせたかを語っています。彼の存在感や技術は、剣道界だけでなく、演劇や映画の世界にも強く影響を与えました。

映画と剣道指導

高野は、数多くの映画の剣道指導を務めました。特に、1935年の『大菩薩峠』や、1969年の『新選組』、1973年の『宮本武蔵』など、彼の剣道技術は多くの映画作品で生かされました。これにより、剣道の魅力を広く伝えることに寄与したのです。

著作と家族

また、彼の著書には『兵法一刀流』や『日本武芸譚』などがあり、剣道の理念や技術についての理解を深めるための貴重な資料となっています。彼の家族も剣道に関わる血筋であり、曽祖父高野佐吉郎、祖父高野芳三郎、父高野佐三郎と続く剣道家の系譜を持っています。

高野弘正の人生は、剣道への熱意と演劇に対する愛情が交差する独特のものであり、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。彼の業績は、剣道の普及とその精神を次世代に伝える架け橋となったと言えるでしょう。

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