髙橋あつ子

高橋 あつ子

日本の教育心理学者である高橋あつ子（たかはし あつこ）氏は、教育心理学を専門分野とし、特に学校現場における特別支援教育の実践研究で知られる。長年にわたり教育現場での多様な経験を積んだ後、大学教育に携わるようになり、教育理論と現場の橋渡し役として活躍している。現在、早稲田大学大学院教育学研究科において教授を務め、後進の指導にあたる傍ら、研究活動に精力的に取り組んでいる。

経歴と専門性

高橋氏の学歴は、まず千葉大学教育学部での学びから始まった。その後、教育心理学への関心を深め、1998年に横浜国立大学大学院教育学研究科を修了し、専門性を確立した。大学院での研究は、氏のその後のキャリアの基盤を形成したと言える。

学術的な探求と並行して、高橋氏は教育現場での豊富な実践経験を持つ。小学校教諭として教壇に立ち、子どもたちと直接向き合った経験は、教育現場の実情や課題を深く理解する上で不可欠なものとなった。また、川崎市教育センターで指導主事として勤務し、学校現場への指導・助言や教育研究の推進にも携わった。これらの経験を通じて、教育実践における課題や、発達に特性を持つ子どもたちへの具体的なサポートの必要性を強く認識するに至る。

教育者としての専門性をさらに高めるため、臨床心理士、学校心理士、特別支援教育士SVといった複数の専門資格も取得している。これらの資格は、教育心理学の知見を基盤としつつ、学校現場で生じる心理的な問題や特別支援が必要な子どもたちへの多角的なアプローチを可能にしている。

大学教員としてのキャリアは、2006年に早稲田大学教育学部非常勤講師から始まった。その後、川崎市立小学校教頭（2007年）も務めるなど現場経験を重ね、2008年に早稲田大学大学院教職研究科の准教授に就任した。ここでは、教育実践に根ざした理論教育を行った。准教授を経て、2015年には同研究科の教授に昇任。さらに2017年からは、早稲田大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻の教授として、実践的知見を有する教員の育成に尽力している。教育現場と大学という異なる立場での多様な経験が、氏の研究と教育に深みを与えている。

研究テーマと主な著作

高橋氏の研究は、教育心理学、特に学校現場における特別支援教育の実践支援に強く焦点を当てている。その成果は、多数の著作や編著として広く共有されている。

代表的な研究テーマは、LDやADHD、自閉症といった発達特性を持つ子どもへの理解と具体的なサポート方法である。学校現場、特に通常の学級担任が直面する状況を想定し、アセスメント方法や効果的なサポートについて実践的に解説した書籍（例：『LD、ADHDなどの子どもへのアセスメント&サポートガイド』シリーズ）や、子ども自身が自分の特性を理解し、困難に対処する力を育むためのアプローチを提案する著作（例：『発達に偏りのある子のトラブルを減らす自己理解イラスト教材』）などを執筆している。

また、自閉症の子どもたちへの理解促進にも力を入れており、『イラスト版自閉症のともだちを理解する本』シリーズといった著作を通じて、子どもたちやその周囲の人々が自閉症という発達特性を正しく理解し、共に学び合う環境を築くための啓発活動を行っている。これらの活動を通じて、特別支援教育が特別な場だけでなく、学校全体、さらには社会全体で取り組むべき課題であるという視点から、実践的な手引きや啓発資料を提供している。

近年は、特別支援教育をより広範な教育システムの変革と関連付けて捉える視点から、インクルーシブ教育や「個別最適な学び」に関するテーマにも関心を寄せている。編著『私学流特別支援教育』や『私学流多様性をインクルージョンする』などでは、多様な子どもたちが共に学び、それぞれのニーズに応じた学びを実現するための教育全体のあり方について論じている。

高橋あつ子氏は、教育心理学の知見と教育現場での豊富な経験を融合させ、特に特別支援教育分野において、多くの教育関係者にとって有益な実践的指針を提供してきた。現在も早稲田大学大学院の教授として、教育現場の最前線が直面する課題、とりわけ多様性を包摂するインクルーシブな学びの実現に向けた研究と教育活動を精力的に続けている。

もう一度検索