鬼 (江戸川乱歩)

江戸川乱歩の短編小説『鬼』

『鬼』は、日本の推理小説界の巨匠、江戸川乱歩によって書かれた短編作品で、1931年に『キング』に掲載されました。本作は、帰省中の推理小説家の目を通し、ひとりの女性の殺人事件がもたらす悲劇と、その背後に潜む人間の愚かさを描いています。

登場人物

• - 殿村昌一: 本作の主人公。推理小説家で、長野のS村に帰省中。
• - 大宅幸吉: S村の村長の息子で、殿村の親友。
• - 山北鶴子: 幸吉のフィアンセで、本作の被害者。
• - 雪村絹子: 幸吉の恋人。

あらすじ

物語は、帰省した殿村と彼の親友である大宅が村外れで散歩をしているシーンから始まります。その道中、彼らは山犬に食い荒らされた若い女性の遺体を発見します。遺体の顔は判別できませんでしたが、着物のデザインからそれが幸吉のフィアンセである鶴子であることが判明します。
彼女は、幸吉のイニシャルが書かれた手紙によって、事件当日に呼び出されたことが明らかになります。しかし幸吉は、その手紙を自分が渡したことはないと主張します。

実は、幸吉と鶴子は親同士によって決められた許婚関係にありましたが、幸吉は彼女に対して良い感情を抱いていませんでした。事件が発生した夜、彼は村を離れたN町にいる恋人と会っていたと警察に告白します。しかし、幸吉の恋人である絹子はその夜、彼とは会っていないと証言します。

この一連の出来事から、読者は幸吉が本当に鶴子を殺したのか、あるいは何か裏に潜む事実があるのか、疑念が深まります。果たして、彼の心の内や人間関係の複雑さがどのように事件に影響を及ぼしたのか、物語の中で浮き彫りになっていきます。

出版

『鬼』は、後にいくつかの文庫版に収録されました。特に、1973年に角川文庫『悪魔の紋章』、1987年に春陽堂文庫『パノラマ島奇談』、1989年には講談社の江戸川乱歩推理文庫『白髪鬼』として再出版されています。

この作品は、乱歩特有の文学的な騙しや人間心理の探求が展開され、読者に考察を促す深いテーマを持つ作品となっています。推理小説の枠を超えた、人間の内面的な暗闇を示す一作として、多くの人に愛されているのです。

もう一度検索