魂の叫び (ローラ・ニーロのアルバム)

『魂の叫び』（原題：Christmas and the Beads of Sweat）は、ニューヨーク生まれの才能あふれるシンガー、ソングライター、ピアニストであるローラ・ニーロが、1970年11月にコロムビア・レコードからリリースしたキャリア4作目のスタジオアルバムです。本作は、先行する傑作『イーライと13番目の懺悔』（1968年）および『ニューヨーク・テンダベリー』（1969年）と共に、ニーロの初期を代表する重要な三部作を締めくくる作品として位置づけられています。

アルバムのレコーディングは、1970年の初夏に精力的に行われました。プロデューサーには、ザ・ラスカルズでの活動でも知られるフェリックス・キャヴァリエと、多くの名盤を手掛けたアリフ・マーディンが共同で迎えられました。ニーロは制作の指揮を彼らに託しながらも、プロジェクト全体の方向性や楽曲のアレンジにおいては、共同作業者として深く関与し、そのクリエイティビティを発揮しました。

音楽性という点では、『魂の叫び』はニーロがそれまでに探求してきたサウンドの架け橋となる役割を果たしています。伸びやかで明るいトーンが特徴だった『イーライと13番目の懺悔』と、対照的に内省的で官能的、そしてピアノが中心となったダークな響きを持つ『ニューヨーク・テンダベリー』。本作は、これら二つの異なる作風が持つ要素をバランス良く取り入れることで、ニーロの音楽世界をさらに広げています。

特にアルバムのサイド1では、名高いマッスルショールズのリズムセクションが参加しており、その貢献によってサウンド全体に穏やかでありながらも力強い、ロックの影響を感じさせる響きが加わっています。しかし、そのロック的なアプローチは、ニーロ独自の、時に心をえぐるような刺激的な歌詞と、感情の機微を表現する気難しいともいえるピアノ演奏によって、ニーロらしい内省的な深みと絶妙に釣り合いが取られています。

当時のローラ・ニーロは、既にソングライターとして高い評価を確立しており、その類まれな才能に惹かれて、本作には豪華なゲストミュージシャンが多数参加しました。ロック史に名を刻むギタリスト、デュアン・オールマンは「Beads of Sweat」で印象的なギターソロを披露し、ジャズ界の巨匠ジョン・コルトレーンの妻で、自身も著名なハープ奏者であるアリス・コルトレーンは、サイド2の楽曲に神秘的なハープの音色を加えています。

商業的にも、『魂の叫び』はニーロのキャリアにおいて成功を収めた一枚となりました。ソングライターとしての人気の高まりも後押しし、アメリカの主要なアルバムチャートであるビルボード200では、自己最高位に次ぐ51位を記録しました。また、本作には、キャロル・キングとジェリー・ゴフィンが共作したスタンダードナンバー「アップ・オン・ザ・ルーフ」のカバーが収録されており、これがローラ・ニーロにとって、ソロアーティストとしてビルボード・ホット100に唯一チャートイン（最高92位）したシングルとなりました。

本作のレコーディングには、ニーロ自身（ピアノ、ボーカル、編曲）以外にも、多くの熟練したミュージシャンが参加しています。サイド1に参加した主なミュージシャンには、バリー・ベケット（ビブラフォン）、フェリックス・キャヴァリエ（オルガン、ベル）、ロジャー・ホーキンス（ドラムス）、エディ・ヒントン（エレクトリック・ギター）、デビッド・フッド（ベース）、ジャック・ジェニングス（パーカッション）、スチュアート・シャーフ（アコースティック・ギター）らが名を連ねています。また、デュアン・オールマン（ギター）やリチャード・デイビス（ベース）もクレジットされていますが、彼らが具体的にどの楽曲で演奏したかは明確にされていません。

『魂の叫び』は、ローラ・ニーロがソングライターとして、そしてパフォーマーとして、円熟味を増した時期の貴重な記録であり、彼女の多様な音楽性が凝縮された、今なお色褪せることのない名盤として聴き継がれています。

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