魔球

魔球（まきゅう）

魔球とは、主に日本において野球などの球技における変化球を表現する言葉です。比喩として、掴みどころのないことや、必殺の武器を指すこともあります。

概要

「魔球」という言葉は、時代によって含む意味に違いがあります。「変化球」という言葉がなかった時代には、単に変化球を表す日本語として使われていました。しかし、20世紀中頃に「変化球」という言葉が定着すると、特に優れた変化球などを指す表現として使われるようになりました。

同時期から野球漫画でも「魔球」という表現が使われ始めます。漫画などの創作においては、作品によって異なりますが、フィクション性の強い作品では現実離れした荒唐無稽な変化球が描かれることも多く、それらを「魔球」と呼び、必殺技のような意味合いで使われたりもします。

現実の野球での「魔球」

魔球の語源

カーブを始めとする変化球を指す単語として「魔球」という言葉が最初に使われ始めたのは明治時代です。

オリンピア号のアーネスト・チャーチの投球（1896年）

第一高等学校（一高）の教諭であった物理学者の山口鋭之助は、1896年5月23日に横浜クリケット・アンド・アスレティック・クラブ（YC&AC）と対戦した際、オリンピア号のアーネスト・チャーチという投手の投球を見て「神技だ、魔球だ」という言葉が出たと手記に残しています。これが「魔球」という言葉が初めて使われた瞬間であるとされています。

新橋アスレチックス倶楽部の平岡凞の投球 （1870 - 1880年代）

日本人として初めて本格的なカーブを投げた人物として知られる平岡凞の投球も、「魔球」という言葉のルーツになった可能性があります。平岡のカーブは、当時の学生たちに衝撃を与え、その投球を見た学生たちが「魔球」という言葉を使ったという説があります。

カーブに対する呼称としての魔球

明治時代後半には、「魔球」は「カーブ」の翻訳として認識されていました。中馬庚は、1897年に出版した野球専門書『野球』の中でカーブを「魔球」と称し、その投げ方を解説しています。

変化球全般に対する総称としての魔球

大正時代から昭和初期にかけては、直球以外の球種を総称する言葉として「魔球」が使われるようになりました。しかし、1930年代中頃には「変化する球」という表現が使われ始め、1950年代中頃には「変化球」という言葉が定着し、「魔球」という言葉は比喩表現でしか使われなくなりました。

比喩表現としての魔球

20世紀後半からは、特別に優れた球種や新種の変化球、特定の選手の特に優れた決め球を魔球と呼ぶ場合が多くなりました。

球種に対して魔球と呼ぶものとしては、スプリットフィンガードファストボール（SFF）やジャイロボール、ナックルボールなどが挙げられます。特定の選手の決め球を魔球と呼ぶものとしては、若林忠志の「七色の魔球」や沢村栄治の「三段ドロップ」、伊藤智仁のスライダー、佐々木主浩のフォークボールなどが挙げられます。

フィクションの世界での「魔球」

漫画などの創作では、作品によって魔球の扱いが異なります。超人的な選手が登場するようなフィクション性の強い作品では、現実離れした荒唐無稽な変化球が描かれて魔球と呼ばれます。一方、現実的な設定に基づく野球漫画では、少し特殊な変化球や優れた変化球が描かれて魔球と呼ばれます。

漫画における魔球の登場 - 全盛期

1958年に連載が始まった『くりくり投手』が、魔球を初めて出した作品とされています。その後、『ちかいの魔球』や『黒い秘密兵器』などの作品が登場し、魔球という言葉が広まっていきました。そして、『巨人の星』の大ヒットと共に、魔球の存在は野球漫画において定着し、不可欠とされるようになりました。

変化球としての魔球

水島新司の『ドカベン』など、現実に即した野球漫画が主流になると、魔球もあくまで変化球の一種として描かれるようになります。水島作品では、魔球の描写に配球の駆け引きや心理戦を持ち込み、新たな境地を開きました。

野球漫画の「魔球離れ」

1980年代には、野球を通じた人間関係を重視した野球漫画が主流になり、魔球は野球漫画における地位を下げていきました。しかし、1990年代後半に入ると再び、現実離れした魔球が登場するようになります。

パロディとしての「魔球」

1970年代半ば以降、「スポーツを題材としたギャグ漫画」が登場すると、魔球もまたパロディの題材とされるようになりました。

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