魔界衆

『魔界衆』（まかいしゅう）は、巨匠・横山光輝によって1976年から1977年にかけて発表された日本の漫画作品です。江戸時代初期、具体的には大坂の陣が終結し、徳川家康がなお健在であった頃を舞台にした時代劇でありながら、SF（サイエンス・フィクション）の要素、特に超能力アクション、宇宙人の存在、そして近未来的な科学兵器が登場する異色のジャンルミックス作品として知られています。作品のタイトルである「魔界衆」とは、実は近隣の住民が、彼らの住む隠れ里を恐れ、「魔界」と呼んで畏怖したことに由来しており、神秘的な魔界そのものやオカルト的な存在とは直接的な関係はありません。

作品概要と物語の始まり

物語は、大坂の陣で敗北した真田幸村が、豊臣家の再興という悲願を達成するために強力な援軍を探し求めるという導入部から幕を開けます。幸村は、伝説とされる隠れ里に住む超能力者の集団、すなわち魔界衆の存在を知り、彼らを探し出すことに成功します。しかし、彼らが遥か古代に地球に飛来した宇宙人の子孫であることが明らかになります。

幸村は彼らの協力を取り付けようと試みますが、この動きを察知した徳川方の高僧、天海僧正がその行く手を阻もうと画策します。物語は、幸村と魔界衆の共闘の可能性と、それを阻止しようとする天海僧正との対決を軸に進行し、超能力や未知の超科学兵器「御神器（ごじんぎ）」を用いた壮絶な戦いが描かれていきます。

ストーリー展開

大坂の陣から時が流れても、豊臣方の残党狩りは続いていました。真田幸村は、配下の猿飛佐助、霧隠才蔵と共に身を隠しながらも、恐るべき戦闘力を持つとされる魔界衆の隠れ里の探索を続けていました。幸村が生存しているとの報を受けた天海僧正は、徳川家康に急報します。幸村生存に顔色を変えた家康は、その抹殺を天海に一任。天海は幸村主従の暗殺命令を下しますが、幸村たちは身代わりを用いて追跡を逃れます。

書物に記された情報を頼りに飛騨山脈深部へ分け入った幸村一行は、川で流されていた赤ん坊を救い出します。先を急ぐ中で、幸村は赤ん坊が特殊な能力で危険を回避していることに気づき、その能力のおかげで天然の毒ガス地帯を突破し、ついに魔界衆の隠れ里へと到達します。外部との接触を極度に嫌う里の人々は対応に苦慮しますが、赤ん坊の命を救われた恩を感じ、幸村たちの当面の滞在を認めざるを得ませんでした。里の住人はテレパシーをはじめとする様々な超能力の使い手ばかりでしたが、それ以外にも何か大きな秘密が隠されている様子でした。

夜間、里の様子を探ろうとした佐助と才蔵はそれぞれ単独行動をとります。不幸にも才蔵は里の警戒センサーに触れてしまい、作動した自動防御機構によって命を落としてしまいます。

才蔵の死は事故として処理され、幸村もそれを受け入れました。幸村からの豊臣方への協力依頼に対し、里の古老たちは頑なに拒否の姿勢を崩しませんでしたが、一部の若者たちは外界への好奇心を募らせていました。そんな折、幸村討伐の命を受けた徳川方の忍者、鬼一族の九鬼が里に迫ります。人並外れた体躯を持ち、首を刎ねられてもなお動く九鬼に、魔界衆も苦戦を強いられ、平助が犠牲となります。続いて若者たちのリーダー格である兵馬が挑みますが、九鬼の前には手も足も出ません。窮地に陥った長老は、洞窟の奥深くに保管されていた「御神器」を取り出し、九鬼を跡形もなく吹き飛ばしました。その圧倒的な威力に戦慄する幸村は、九鬼の残骸を調べますが、カラクリ人形の素材に混じって肉片が散乱しており、内部に操る者がいたことが示唆されますが、その正体が明かされることはありませんでした。

九鬼との戦いで負傷した兵馬は、「魔界衆は優れた種族ではなかったのか？」「外界は変化しているのではないか？」「敵に勝てたのは御神器のおかげであり、魔界衆自身の力ではない」と長老たちに激しく詰め寄ります。議論の末、兵馬を含む5人の若者が幸村たちと共に里の外へ出ることを許されます。さらにその後を追って、太一という少年までが里を出てしまいます。彼は御神器の一つ、レーザーガンと思われる武器を持ち出していました。

徳川方では、魔界衆が幸村と接触したことを探知し、天海僧正は強い危機感を抱きます。天海は伊賀や甲賀の忍者、そして鬼一族などの精鋭部隊に指令を下し、魔界衆との本格的な対決が始まります。鬼一族との戦いで御神器と太一を奪われた兵馬たちは追跡を開始しますが、老獪な天海に主導権を握られ、一人、また一人と仲間を失っていきます。やがて兵馬と岩五郎の二人が残されますが、彼らもついに囚われてしまいます。

天海は服部半蔵を伴って現地に赴き、正面からの攻撃を陽動とし、別動隊を密かに里へ侵入させ、水源に毒物を混入させるという周到な作戦を実行します。ここで明らかになるのは、天海僧正自身が若い頃に里を抜け出した元魔界衆であり、本名を権九郎といったこと。そのため、彼はテレパシーを用いて魔界衆を欺く手段も使えたのです。

処刑寸前だった兵馬たちは、岩五郎の自己犠牲によって脱出に成功し、里へと帰り着きます。しかし、そこで彼らが見たのは、忍者と魔界衆の夥しい死体が散乱し、無残にも焼き払われた里の光景でした。生き残ったわずかな魔界衆は、御神器が祭られている地下の洞窟に避難しており、兵馬と太一も彼らに合流します。

追い詰められた魔界衆は、人類との戦いを避けることを決断し、隠されていた宇宙船を用いて遠い母星を目指し、地球を旅立ちます。豊臣再興の希望の灯が消えた幸村は、落胆と共に彼らを見送るのでした。

登場人物

物語は当初、真田幸村の視点を中心に展開しますが、途中から徳川方の天海僧正や魔界衆の兵馬が物語の推進役を担うようになります。

真田幸村: 本作の主人公的な存在。大坂の陣で影武者を使って生き延び、豊臣家再興のために魔界衆の力を求めます。
猿飛佐助: 幸村の忠実な部下で優れた忍者。物語の最後まで幸村と行動を共にします。
霧隠才蔵: 幸村の部下。分身の術や暗示を得意とする忍者ですが、魔界衆の里で命を落とします。
三好清海入道: 幸村の部下。天海に捕らえられ、催眠術で情報を引き出された末に殺害されます。
兵馬: 魔界衆の若者たちのリーダー格。外界に強い興味を持ち、幸村と共に里を出ることを決意。苛酷な戦いを生き抜きます。
長老: 魔界衆のリーダー。年長者であり、洞窟のセンサーを操作できるステッキを持つ特権者でしたが、天海の攻撃により命を落とします。
赤ん坊: 氏名不明の男児。一族で最も優れた予知能力を持ち、里への到達や危機回避に重要な役割を果たします。
太一: 兵馬たちを追って里を出た少年。御神器の一つを持ち出します。
* 天海僧正（権九郎）: 徳川方の中心人物。幸村を執拗に追う一方、魔界衆の存在にも危機感を抱きます。その正体は、若い頃に里を出た元魔界衆であり、テレパシーなどの能力も用います。

他の横山作品との比較

横山光輝の他の代表作との間に、本作はいくつかの興味深い共通点や相違点が見られます。特に、同じくSF超能力アクションである『バビル二世』との比較は顕著です。

共通点としては、「遥か昔に宇宙人を乗せた宇宙船が地球に着陸したこと」「その宇宙人の子孫が現在も地球に暮らしており」「その子孫が超能力を持っていること」などが挙げられます。一方で相違点もあり、『魔界衆』では宇宙人の子孫が隠れ里に集団で暮らしているのに対し、『バビル二世』のバビルのように子孫は少ないとされています。また、『魔界衆』では子孫が古くからの伝承を受け継いでいるのに対し、バビルの子孫は自覚がないという違いもあります。さらに、『バビル二世』における３つのしもべに相当するのが、『魔界衆』の超兵器、すなわち「御神器（神体とも呼ばれる）」であると考えられます。

また、石ノ森章太郎の漫画『変身忍者嵐』（『希望の友』版）の最終回とも共通点が見られます。この作品では、敵である血車党が一族で宇宙人であり、最後に母星を目指して地球から脱出するという結末が描かれており、『魔界衆』のクライマックスと類似しています。

『魔界衆』は、時代劇という枠を超え、SF、超能力、古代宇宙人といった要素を大胆に取り入れた横山光輝らしいスケールの大きな作品であり、その独特な世界観と怒涛のストーリー展開は、多くの読者に強い印象を残しました。

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