鯨神

『鯨神』について

『鯨神』（くじらがみ）は、宇能鴻一郎による1961年の小説で、第46回芥川賞を受賞した作品です。物語は明治時代初期の長崎・平戸島を舞台に、家族をクジラに奪われた青年の復讐劇を描いています。クジラに対する恐れや復讐心が村人たちに影響を与え、主人公は周囲の期待に押しつぶされながら運命に抗います。また、本作は映画や漫画としても展開され、さまざまなメディアでその物語が伝えられています。

あらすじ

物語は、作家が取材先で古い絵巻物を見つけ、その題材がクジラに関する伝説であることに触れたところから始まります。明治初期には、特に紀州や長州、肥前地方で捕鯨が盛んでしたが、その中でも「鯨神」と呼ばれる巨大なセミクジラが現れ、漁師たちに恐怖をもたらしていました。このクジラは、漁師の船を体当たりで壊したり、捕ろうとした者を海に引きずり込んで命を奪う存在となり、村人たちはその存在に復讐心を抱くことになります。

この背景の中、主人公の若者シャキは、家族を鯨神に奪われた過去を持ち、母親からの言葉を胸に秘めながらクジラ漁師として成長します。村の鯨名主は、鯨神を捕まえた者に名跡や田地、さらには娘を与えると宣言し、村の男たちの間で競争が激化します。

新たに紀州からやってきた漁師が登場し、彼は名主の座を狙い、シャキと対立することになります。しかし、シャキは復讐のみに集中し、紀州の挑発には耳を貸しません。やがて、紀州は村の娘エイを犯し、エイは密かにシャキとの子を出産します。

物語が進む中、仲間たちの助けを得て、シャキたちはついに鯨神との対峙に臨みます。彼らは網をかけ、モリを打ち込みましたが、鯨神はまったく弱る気配がありませんでした。最終的に紀州が鯨神にしがみついて急所を突き、シャキもまた鼻瘤に手形包丁を突き立て、その瞬間に気を失います。

小説の評価と影響

小説は、1961年に掲載後、その年の芥川賞を受賞しました。選考時には、井上靖をはじめとする委員から高評価を得ましたが、佐藤春夫だけが厳しい意見を寄せました。宇能鴻一郎は、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』からの影響を受けていると指摘される一方で、捕鯨文化や独自の素材を取り入れた作品に仕上げています。舞台となる「和田浦」は架空の場所ですが、実際の地名である長崎県平戸市がモデルとされています。

映画と漫画化

本作は、1962年に映画化され、特撮技術を用いて鯨の出現シーンが表現されました。映画は多くの著名なスタッフや俳優が関わり、特撮作品の先駆けとなりました。さらに、1971年には漫画版としてさいとう・たかをによって描かれ、より広範な読者層に親しまれることとなります。

『鯨神』は、復讐と運命に翻弄される青年の苦悩を描いた深い作品であり、時を超えてさまざまな形で受け継がれている文学の一つです。

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