鰊粕

鰊粕（にしんかす）とは

鰊粕は、ニシンを原料とする肥料です。江戸時代後期から昭和初期にかけて、現在の北海道日本海沿岸地域、さらに樺太で大規模に生産されました。この肥料は、日本の農業、特に商品作物の栽培において重要な役割を果たしました。

歴史

ニシン漁の始まり

北海道における和人のニシン漁は、15世紀中頃に始まりました。当初は食用目的でしたが、18世紀に入ると商品作物の栽培が盛んになり、肥料としての需要が高まりました。ニシンを煮沸して油を搾り取った後の滓である「鰊粕」が、その肥料効果から注目されるようになったのです。

鰊粕の生産拡大

18世紀後半には、地曳網や笊網などの導入によりニシンの大量捕獲が可能となり、本格的な鰊粕の製造が始まりました。しかし、当初は松前藩の目を避けるため、北海道の奥地や樺太が主な産地でした。その後、次第に産地は南下し、幕末には和人地でも生産が開始されました。特に北海道の日本海沿岸では、小型のニシンが多かったため、食用ではなく鰊粕の製造を目的とした漁獲が主流となりました。

鰊粕の流通

鰊粕は、ニシンが産卵のために北海道近海を訪れる春に生産のピークを迎えました。北前船交易によって、北陸地方や西日本各地に輸出され、稲作や商品作物の栽培に欠かせない肥料として利用されました。

製造方法

鰊粕の製造は、まず大釜でニシンを煮沸することから始まります。煮すぎるとニシンが砕け、生煮えでは不良品になるため、注意が必要です。煮上がったニシンを圧搾機で圧搾し、油と粕に分離します。圧搾された粕は、乾燥させて製品となります。

工程

1. 煮沸: 大釜に淡水または海水を入れ、沸騰させた後、大量のニシンを投入し煮ます。
2. 圧搾: 煮上がったニシンを圧搾機に入れ、時間をかけて圧力を加え、油と粕を分離します。
3. 乾燥: 圧搾された粕を数日間乾燥させます。乾燥後、細かく粉砕し、筵の上に広げ、さらに乾燥させます。
4. 俵詰め: 乾燥させた鰊粕を俵に詰め、出荷します。

圧搾機の進化

当初は木製の圧搾機が使われていましたが、明治時代に入ると金属製の圧搾機が登場しました。これにより、圧搾作業の効率が向上しました。

流通

鰊粕の重要性

当初は干鰯が主な魚肥でしたが、18世紀になると耕地拡大により干鰯の供給が不足しました。そこで、蝦夷地産の安価な鰊粕が注目されるようになりました。19世紀には、大阪の市場が鰊粕の集積市場として確立し、鰊粕が魚肥の中心となりました。

販路

鰊粕は、北前船の寄港地である日本海沿岸や瀬戸内地方で特に普及しました。明治時代には、北陸地方、中国・四国地方、東海地方など、広範囲に流通しました。特に富山県では、県内の稲作に全量が消費されたことが特徴です。

利用

肥料としての利用

鰊粕は、稲作や綿花栽培など、様々な作物に使用されました。特に富山県では、稲作に大量の鰊粕が使用され、収量増加に貢献しました。綿花栽培においては、土壌改良や生育促進のために利用されました。

食用としての利用

状態の良い鰊粕は、食用として利用されることもありました。昆布巻きの芯や糀漬けとして食べられた地域もあります。

影響

環境への影響

鰊粕の製造には大量の薪が必要だったため、北海道の沿岸部では森林破壊が進みました。また、アイヌの人々は鰊粕製造などの労働に従事させられ、伝統的なコミュニティの変容や破壊をもたらしました。

地域経済への影響

鰊粕の流通は、富山県などの地域経済に大きな影響を与えました。網元や廻船問屋は、鰊粕の取引で富を築きましたが、一方で農民は鰊粕の代金支払いに苦しみ、土地を失うこともありました。

現在

ニシンの不漁や化学肥料の普及により、鰊粕の製造は衰退し、現在ではほとんど利用されていません。

まとめ

鰊粕は、かつて日本の農業を支えた重要な肥料でした。その製造と流通は、北海道の経済や社会に大きな影響を与えました。歴史を振り返る中で、当時の人々の知恵と苦労を感じることができます。

もう一度検索