鰾

鰾：硬骨魚類の浮力調節器官

硬骨魚類の多くが持つ鰾（ひょう、うきぶくろ）は、気体で満たされた袋状の器官です。主な機能は浮力の調節ですが、聴覚補助や呼吸補助など、様々な役割を担っていることが知られています。本記事では、鰾の構造、機能、進化、そして鰾を持たない魚類との比較を通して、その生態を多角的に解説します。

鰾の機能：浮力の調節

魚の体は、周囲の水よりも密度が高いため、何もしなければ沈んでしまいます。そこで、多くの硬骨魚類は、簡単に浮力を得るために鰾を発達させました。鰾は伸縮性に富む風船のような器官で、ガスを出し入れすることで浮力を調整し、水中で安定した姿勢を保ちます。

さまざまな鰾：気道の有無

鰾は、消化管から分岐した器官が進化したものです。その起源を辿ると、消化管と気道で繋がった開鰾（有気管鰾）であったことがわかります。しかし、進化の過程で気道を失い、消化管から離れた閉鰾（無気管鰾）を持つ魚類も現れました。

開鰾魚は、水面に上がって口から空気を直接鰾に取り込みますが、閉鰾魚は、鰾の周囲にある奇網（きもう）という血管の網から、ガス腺と呼ばれる特殊な細胞を介してガスを吸収します。サケ、コイ、ニシン、ウナギなどは開鰾魚であり、一方、ハダカイワシ、タラ、スズキなどは仔魚のうちに気道を失い、閉鰾となります。興味深いことに、開鰾魚であるウナギはガス腺も持っています。

鰾の多様な役割

聴覚補助

鰾は、水中の音を反響させる性質を持つため、聴覚を補助する役割も担っています。コイやナマズなどには、ウェーバー器官と呼ばれる特殊な構造があり、鰾と内耳を繋いで音を増幅し、聴覚を向上させています。ウェーバー器官を持つ魚類は骨鰾上目と呼ばれ、優れた聴覚を持つことで知られています。また、ニシン上目では、鰾の前端が伸びて内耳に繋がり、聴力を補助する鰾耳連絡構造が見られます。

呼吸補助

原始的な条鰭類（ポリプテルス、ガー、アミア）や肉鰭類（ハイギョ）では、鰾は肺としての機能も残しており、鰓呼吸に加えて肺呼吸も行います。これらの魚の鰾は、食道の腹側（ポリプテルス）または背側（ガー、ハイギョ）に通じており、多くの場合左右に1対存在します。一方、チョウザメや真骨類（他のほとんどの条鰭類）では、呼吸機能を失った完全な鰾を持ちます。これらの鰾は食道の背側に通じており、多くは1つになっています。ただし、カラシン目のErythrinusやアロワナ目のピラルクーなど、一部の淡水魚では、鰾による呼吸が確認されています。

シーラカンスの鰾

現生のシーラカンスであるラティメリアは、脂肪で満たされた鰾を持っています。これは、気体で満たされた鰾を持つ他の条鰭類とは異なり、肺を持つハイギョに近い特徴です。絶滅したシーラカンスの中には、ハイギョのような肺を持っていた可能性も示唆されています。

鰾の進化：肺からの変化

鰾は、四肢動物の肺と相同な器官です。ダーウィンの時代には、肺が鰾から進化したと考えられていましたが、20世紀後半の研究により、逆に、原始的な硬骨魚類は肺を持ち、それが一部の硬骨魚類で鰾へと変化したことが明らかになりました。

脊椎動物は元々は海洋生物でしたが、淡水に進出した系統から硬骨魚類が誕生し、溶存酸素量の少ない淡水環境で空気呼吸の必要性から肺が発達したと考えられています。その後、水中生活に適応した系統が肺を鰾へと変化させたのでしょう。完全な鰾への進化は、条鰭類のうち真骨類とチョウザメ目でのみ起こりました。

鰾を持たない魚類

サメやエイなどの軟骨魚類は、硬骨魚類が肺を獲得する前に分岐したため、肺も鰾も持ちません。浮力は、肝臓に蓄積されたスクアレンという脂質によって得ています。また、シロワニなどは口から消化管に空気を入れることで浮力を調節します。ハイギョは、条鰭類が肺を鰾に変化させる前に分岐したため、肺（あるいは鰾）を持っています。真骨類の一部は、二次的に鰾を失っています。底生性の魚や、活発に遊泳しない魚、深海魚などにその傾向が見られます。

その他

淡水産のカメが魚を食べる際、鰾が切り離されて水面に浮上することがあります。また、一部の魚の鰾は、アイシングラスと呼ばれるゼラチンの原料となります。

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