鳥のミルク

「鳥のミルク」という名前のこのお菓子は、マシュマロ、メレンゲ、ミルクスフレなどをソフトチョコレートでコーティングした、独特の食感が魅力の洋菓子です。ポーランドを発祥とし、現在ではロシアをはじめとする様々な国で親しまれています。

歴史と種類

ポーランド

「鳥のミルク」の歴史は、1930年代のポーランドに遡ります。チョコレート菓子メーカーのヴェーデル社（現在のロッテヴェデル）が、「Ptasie Mleczko（プターシェ・ムレチュコ）」という名前でこのお菓子を開発し、販売を開始しました。ココナッツ、バニラ、生クリーム、レモンなどを混ぜ合わせたマシュマロをミルクチョコレートで包んだこのお菓子は、瞬く間に人気を集めました。

ポーランドでは、比較的安価なタイプは子供のおやつとして親しまれていますが、贈答品としても非常に人気があります。高級版の詰め合わせは、日本の饅頭や羊羹のように、ちょっとしたお茶菓子として贈られることが多く、国民の間で日常的なギフトとして定着しています。

また、ドイツではヴェーデル社の「鳥のミルク」が「フォーゲルミルヒ（Vogelmilch）」という名前で、第二次世界大戦以前から知られていました。ポーランドでは、「鳥のミルク」という名称をロッテヴェデル社のみが使用することができ、他のメーカーは類似のお菓子に別の名前を使用しています。

ロシア

ロシアにおける「鳥のミルク」は、ポーランドのものとは少し異なる歴史を辿ります。1967年、ウラジオストク製菓工場（現プリモールスキー・カンヂーチェル）に勤務していた菓子職人アンナ・チュルコワ氏を中心とするチームが、独自のキャンディータイプの「鳥のミルク」を開発しました。寒天を使用するなど、ポーランド版とは製法が異なり、生菓子要素が強いため日持ちは短くなっています。

このお菓子はソ連を代表するお菓子の一つとなり、アンナ・チュルコワ氏はその功績を称えられ、社会労働英雄やレーニン勲章を受勲しました。しかし、当時のソ連には知的財産に関する法整備が不十分だったため、このレシピは広く模倣され、1975年にはクラースヌィー・アクチャーブリ社（赤い10月）など、他のメーカーでも製造・販売されるようになりました。

1978年には、モスクワのプラガ・レストランで、同じ名前のケーキが登場しました。このケーキは、スフレを挟んだスポンジケーキにチョコレートグレーズをかけたもので、こちらも同様にモスクワ市内の他のレストランに模倣されて広まっていきました。1980年代には、ケーキ版「鳥のミルク」専用の工場が建設され、1982年に製法が登録されました。

ソ連崩壊後、キャンディー版については、「鳥のミルク」の商標登録を最初に取得したロット・フロント社が名称使用権を独占しています。プリモールスキー・カンヂーチェル社では「プリモルスキエ」という名前で販売が続けられています。

現在では、キャンディ版、ケーキ版ともに、様々なメーカーによってロシア全土のスーパーマーケットや専門店で販売されており、広く愛されています。

その他の国

モルドバでは、ルーマニア語で「ラプテ・デ・パサーレ（lapte de pasăre）」として知られる、ロシアのキャンディ版に似たお菓子がブクリア・キャンディー工場で製造されています。ただし、ルーマニアには「鳥のミルク」という名前のデザートも存在し、こちらはクレーム・アングレーズにメレンゲを浮かべたもので、フランスの「イル・フロッタント」と同じものです。

メレンゲとクレーム・アングレーズのデザートを「鳥のミルク」と呼ぶ例は、他にもハンガリーの「マダールテイ（madártej）」やオーストリアの「カナリミルヒ（Kanarimilch）」などがあります。

語源

「鳥のミルク」という名前の語源は、スラヴ人の古い民話に由来します。その民話では、美しいお姫様が求婚者の情熱と知恵を試すために、この世に存在しない贅沢品である「鳥のミルク」を持ってくるよう命じます。つまり、「鳥のミルク」とは、英語で言うところの「アンオブタニウム」のようなもので、「この世にないほど美味しいお菓子」という意味合いが込められています。


「鳥のミルク」は、その名前の由来となった物語のように、夢とロマンが詰まったお菓子と言えるでしょう。

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