鳥の歌いまは絶え

『鳥の歌いまは絶え』（Where Late the Sweet Birds Sang）

ケイト・ウィルヘルムの『鳥の歌いまは絶え』は、1976年に発表されたSF小説であり、彼女の代表作とされる作品です。この小説は、1977年にヒューゴー賞、ローカス賞、ジュピター賞を受賞し、ネビュラ賞にもノミネートされています。そのタイトルには、ウィリアム・シェイクスピアの「ソネット73番」から引用された言葉が使用されています。2010年には酒匂真理子による日本語訳がサンリオSF文庫から出版され、その後2020年に創元SF文庫からも再刊行されました。

あらすじ

物語は、近未来の地球を舞台に展開します。核汚染やその他の要因により、生態系は急速に崩壊して人類は生殖能力を喪失しつつあり、子どもを持つことが困難になっています。この状況において、「谷」と呼ばれる豊かな渓谷に住む一族は、未来のためにクローン技術の研究所を設立しました。この技術は初めに家畜に応用され、その後人間にも利用されることになります。しかし、この研究には倫理的な問題が伴い、クローンの赤ん坊たちが存在することはその問題をさらに深刻化させます。

クローン技術の進展にもかかわらず、クローン人間自身もまた、生殖能力の低下に悩まされます。そのため、彼らはすべての子孫をクローンとして生み出すことになるのです。クローンの兄弟姉妹たちは、お互いに深い感覚的なつながりを持ちながらも、孤立感の中で生活することに苦しむようになります。社会は全体のために尽くすことが求められ、そうでない者は異常者として排除される風潮が生まれました。

新たな宗教も生まれ、「追悼式」という行事が設定され、社会的に存在しなくなった者の死を追悼することで、周囲はその悲しみを忘れられるようになっていきます。クローン社会は、遺伝子に応じて人間を「技術者」、「炭坑夫」、「農民」として生まれさせるようになり、こうして出生時から職業が決定されることが幸福とされるようになっていきました。

しかし、突然変異として「個性」を持つ人間も現れます。このような「個性」の出現は、クローン社会において自由のない階級制度や奴隷制の実態を浮き彫りにします。特に生殖能力のある女性たちは「繁殖員」として任命され、その役割に従うことを強いられるのです。

部分的なストーリー

第1部

本作の主人公である研究者デイヴィッドは、クローン技術の背後に潜む恐怖に気づき、研究所を破壊しようと試みますが、それが発覚し、「谷」の外に追い出されてしまいます。

第2部

クローン第1世代の女性モリーは、自我に目覚め、芸術に興味を持ち始めます。彼女は一時的に社会的な生活を拒否し、孤独な生活を選択しますが、その影響が他のクローン姉妹たちにも及ぶことになります。結果的に、彼女は麻薬に依存する状態となり、意に反して「繁殖員」とさせられることに。

第3部

マークは、生物学的な親から生まれた個性を持つ人間です。彼はクローン兄弟姉妹たちとの感覚を共有しないため、孤独ですが、その存在はクローン社会においては厄介者として扱われ、最終的には排除される運命に直面します。

この小説は、技術の進歩がもたらす影響や、人間としての個性を求めることの重要性を鋭く描写しており、読者に深い思索を促します。

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