鳥居引拙

鳥居引拙：戦国時代の茶の湯を彩った名匠

鳥居引拙（とりい いんせつ）は、生没年不詳ながら戦国時代を代表する茶人として知られています。その名は、数々の逸話とともに茶道史に刻まれています。村田珠光という茶道界の巨匠に師事した引拙は、堺の豪商として裕福な暮らしを送っており、茶の湯への深い造詣と莫大なコレクションで名を馳せました。

山上宗二という人物の記録『山上宗二記』には、珠光、武野紹鴎とともに「古今の名人」として紹介されています。これは、引拙の茶の湯における卓越した技量と審美眼の高さを示す重要な証左と言えるでしょう。珠光の次男という説も存在するものの、確証に欠けるため、信憑性は低いとされています。史料の不足から生涯の詳細は不明な点も多いですが、残された記録から、その人物像を丁寧に紐解いていきましょう。

珠光の後継者として

引拙は、師である村田珠光の茶の湯を忠実に継承し、さらに独自の境地を開拓した人物でした。山上宗二は、引拙を「珠光に次ぐ名人」と評したと伝えられています。この評価は、当時の茶道界における引拙の地位と技量の高さを見事に物語っています。

引拙と名器の数々

引拙は、多くの名品茶器を所有することで知られています。これらの茶器は「引拙名物」と呼ばれ、その数は30種類にも及んだと伝えられています。なかでも有名なのは、「楢柴肩衝（ならしばかたつき）」や「蕪なしの花入れ」などです。これらの茶器は、引拙の審美眼と収集眼の高さを示すだけでなく、後の茶道文化にも大きな影響を与えました。さらに、彼自身の名を冠した「引拙茶碗」も存在します。

引拙名物の中には、千種の茶釜、侘助肩衝、緑桶水指、大霞猿釜、松本茄子、胡桃口柄杓立といった、現在でも茶道愛好家の間で知られる名品が含まれています。これら多くの茶器は、のちに豊臣秀吉の手に渡ったと伝えられています。これは、引拙の所蔵品がいかに価値が高く、当時の人々からいかに高く評価されていたかを物語るエピソードと言えるでしょう。

水指棚への造詣

引拙は、茶道具の中でも特に水指棚を愛好しました。彼自身の手によって作られた、あるいは使用されたとされる水指棚は「引拙棚」と呼ばれ、後世の茶道家にも大きな影響を与えました。特に、武野紹鴎が引拙棚を改良して考案したとされる「袋棚」は、現代の茶道においても広く用いられている重要な茶道具です。引拙の茶に対する造詣の深さは、水指棚へのこだわりからも伺えます。

生涯の終わりとその後

『山上宗二記』によると、引拙は70歳で亡くなったとされています。しかしながら、その生涯については依然として不明な点が多く、さらなる研究が求められています。それでも、彼の茶の湯に対する情熱と、後世に残した数々の名品、そして独特の茶の湯のスタイルは、現在でも多くの茶道愛好家から高く評価され、その名と業績は茶道史に燦然と輝き続けています。引拙の残した足跡は、現代の茶道文化を考える上で欠かせない重要な要素と言えるでしょう。

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