鳥高斎栄昌

鳥高斎栄昌：江戸時代の多才な浮世絵師

鳥高斎栄昌（ちょうこうさい えいしょう）は、江戸時代中期に活躍した浮世絵師です。生没年は不明ですが、寛政年間（1789-1801年）を中心に作品を制作していました。その作風は多岐に渡り、錦絵、黄表紙の挿絵、そして肉筆浮世絵と、幅広い表現技法を駆使した作品群を残しています。

栄昌は、当時著名な浮世絵師であった鳥文斎栄之に師事しました。栄之門下には多くの才能が輩出しましたが、その中でも栄昌はとりわけ高い生産性を誇り、数多くの作品を残したことで知られています。彼の作品は、師である栄之の影響を受けつつも、独自の表現を確立し、高い評価を受けています。

錦絵：美人を中心とした華やかな表現

栄昌の錦絵作品は、特に美人画に秀でており、喜多川歌麿風の洗練された美人大首絵も手がけています。代表作として、寛政6年から11年にかけて版行された大判揃物「郭中美人競」が有名です。この作品は、複数の美人図が一枚の絵として構成されており、当時の流行を反映した華やかな描写が特徴です。現在、ボストン美術館を始めとする複数の美術館に収蔵されており、その芸術的価値の高さが示されています。他にも「当世美人合」などの美人画シリーズも残し、当時の美意識を伝える貴重な資料となっています。 様々な版元との協業も行っており、「兵庫屋三ツ濱」「扇屋内花扇」「角玉屋内若紫」「大文字屋内本津枝」「越前屋内浅妻」といった作品名からも、当時の出版事情が伺えます。さらに東京国立博物館が所蔵する「若那屋内　白露」には「昌栄堂栄昌画」の落款があり、彼の作品であることを明確に示しています。ベルリン国立東洋美術館の「青楼俄万歳」、たばこと塩の博物館の「角玉屋玉菊」、ブリュッセル王立美術歴史博物館の「四季童遊 水仙 梅」、ピッツバーグ美術館の「青楼美人揃 丁子屋雛鶴」など、多くの作品が世界中の美術館に収蔵されており、国際的に高く評価されています。

黄表紙挿絵：ユーモラスな表現

栄昌は錦絵だけでなく、黄表紙の挿絵も手がけており、その才能の多様性を示しています。寛政10年には、壁前九年坊作の黄表紙4作品、『帒湊宝乗合』『奇遇雌雄器』『摹書筆回気』『産品図面/難病一変　即席御療治』の挿絵を担当しました。これらの作品では、錦絵とは異なる、よりユーモラスで写実的なタッチで人物や情景を描いています。

肉筆浮世絵：繊細な筆致

栄昌は、肉筆浮世絵も制作していました。浮世絵太田記念美術館に所蔵されている「隅田川図巻」は、師である栄之の作品を模写したもので、「栄之翁筆　応需栄昌摹」の落款からその経緯が分かります。また、光記念館所蔵の「蚊帳美人図」は、繊細な筆致で描かれた美しい作品で、「鳥高斎栄昌画」の落款と「榮昌」の朱文方印が確認できます。これら肉筆作品は、栄昌の確かな画力と、師の技法を踏襲しつつ独自の表現を追求する姿勢を示す重要な資料となっています。

まとめ

鳥高斎栄昌は、錦絵、黄表紙挿絵、肉筆浮世絵と、多様な分野で活躍した実力派の浮世絵師でした。師である鳥文斎栄之の影響を受けながらも独自の作風を確立し、数多くの作品を残した彼の功績は、今日においても高く評価されています。彼の作品は、江戸時代の風俗や文化を知る上で重要な資料であると同時に、その芸術的価値も高く、世界中の美術館に収蔵され、多くの人々を魅了し続けています。今後、新たな資料や研究によって、栄昌の生涯や作品について、より深く理解が進むことが期待されます。

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