鳩 (ピカソ)

パブロ・ピカソの『鳩』は、1949年に制作されたリトグラフ作品です。黒い背景に白い鳩が描かれたこの作品は、発表当時から平和の象徴として広く認識され、世界平和評議会のポスターにも使用されました。現在、この作品はテート・ギャラリーに収蔵されています。

制作の背景

ピカソは、スペイン内戦が勃発するまでは政治にほとんど関心を示しませんでした。画商のダニエル＝ヘンリー・カーンワイラーは、当時のピカソを「最も政治的でない男」と評しています。しかし、1936年に始まったスペイン内戦はピカソに大きな衝撃を与え、政治への関心を高めるきっかけとなりました。その結果、1937年には代表作の一つである『ゲルニカ』を制作し、発表後、ピカソは反ファシズムの象徴と見なされるようになりました。

第二次世界大戦終結後、ピカソは人道的観点から共産党に入党します。彼にとって共産主義は、第二次世界大戦やスペイン内戦におけるファシズムを否定する選択肢でした。しかし、ピカソの入党は論争を呼び起こすこともありました。1948年から1951年にかけて、ピカソは世界平和評議会に出席し、1950年にシェフィールドで開催された平和会議では、「私は、死よりは生を、戦争よりは平和を支持する」と演説しました。

作品について

1949年1月9日、ピカソはパリの版画家フェルナン・ムルロのアトリエで、モノクロのリトグラフ『鳩』を制作しました。この作品は、白のアルシュ紙に5枚のアーティスト・プルーフと50枚のプリントが刷られ、ギャラリー・ルイーズ・レイリスから出版されました。

このリトグラフに描かれている鳩は、ピカソの友人である画家アンリ・マティスから贈られたミラノ鳩です。ピカソの『鳩』は、1949年の世界平和評議会のポスターに使用され、ピカソのアトリエを訪れたフランス共産党支持者の詩人ルイ・アラゴンによって選ばれました。こうして鳩は平和の象徴としてだけでなく、世界の共産主義の象徴ともなったのです。平和評議会が開かれる前日の4月20日、ピカソのパートナーであるフランソワーズ・ジローが4人目の子供を出産し、スペイン語で鳩を意味するパロマ（Paloma）と名付けられました。

平和の象徴として

ピカソが描いた鳩のイメージは、その後世界中で平和の象徴として使用されるようになりました。1949年から亡くなるまでの間、ピカソはポスター、版画、ドローイングなど、数多くの平和の鳩をモチーフにした作品を制作しました。ヴロツワフ、ストックホルム、シェフィールド、ウィーン、ローマ、モスクワで開催された世界平和評議会では、この絵を元にしたものが使用され、平和運動を通じて世界中に配布されたことで、ピカソの名声はさらに高まりました。

ピカソにとって鳩は、重要な政治的シンボルであると同時に、個人的なシンボルでもありました。鳩は、ピカソに画家としての技術を教えた父ホセ・ルイス・イ・ブラスコを思い出させるものでした。父は、1880年代にピカソが幼少期を過ごしたマラガの家で鳩を描いていたのです。1955年に南フランスのカンヌに移り住んだピカソは、自宅に鳩舎を建てました。1957年には、鳩に囲まれた開いた窓を描いた『スタジオ（鳩・ベラスケス）』を制作しています。

Dove (1949) at the Tate

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