鳳来寺駅

鳳来寺駅

鳳来寺駅（ほうらいじえき）は、かつて愛知県新城市門谷に設けられていた、豊橋鉄道田口線の鉄道駅です。信仰の対象として知られる鳳来寺の最寄り駅としての役割を担いました。

歴史

開業への道のり

この駅は、1929年（昭和4年）5月22日に営業を開始しました。これは、当時田口鉄道が敷設を進めていた第一期線、本長篠駅（開業時は鳳来寺口駅）から三河海老駅までの区間が開通した際に同時に開業したものです。当初、駅名は所在地の大字にちなみ「門谷」とすることも検討されていましたが、鳳来寺の門前町として栄えるこの地が、鳳来寺山への表参道入口にあたることから、最終的に「鳳来寺」と命名されました。

田口鉄道は、愛知県北設楽郡田口町（現在の設楽町）への鉄道建設を目指し、1927年（昭和2年）11月に設立されました。当初の計画では、豊川鉄道（後のJR飯田線の一部）の終点であった長篠駅（現在のJR飯田線大海駅）を起点とし、豊川（寒狭川）に沿って線路を敷設する構想でした。しかし、会社設立の段階に至り、既に長篠駅より先の区間を開業させていた鳳来寺鉄道や、鳳来寺からの出資を取り付けるために、起点駅を鳳来寺鉄道の鳳来寺口駅に変更し、鳳来寺の近くを経由するルートへと計画が変更されました。

開業後の展開

駅が開設されると、その周辺には十数軒の民家が集まり、新たな集落が形成されました。1935年（昭和10年）には、近くの門谷に鳳来寺女子高等学園（後の愛知県立鳳来寺高等学校、2011年閉校）が開校しました。この学園は、田口鉄道による通学を前提として設けられた側面もあったとされています。

太平洋戦争末期の1945年（昭和20年）7月27日からは、駅に田口鉄道の本社が置かれました。これは、それまで豊橋市内にあった本社が、同年の豊橋空襲で被災したため移転したものです。

終戦後の1949年（昭和24年）9月23日には、駅前に「田口鉄道自然科学博物館」が開設されました。これは、「東三河の地質と鉱物の会」と田口鉄道が協力して設立した施設で、鳳来寺山を中心に収集された資料が展示されました。この博物館は、1963年（昭和38年）に開館した町立鳳来寺山自然科学博物館の基礎となりました。

鳳来寺の最寄り駅として、毎年11月23日に開催される鳳来寺山もみじ祭の時期には、JR飯田線からの臨時列車が乗り入れるなど賑わいを見せました。特に1961年（昭和36年）の夏季には、名古屋駅からの直通快速列車「臨電鳳来」が運行されました。また、1950年（昭和25年）から1954年（昭和29年）にかけては、名古屋鉄道（名鉄）の団体用臨時列車が、小坂井支線と飯田線を経由して新名古屋駅（現在の名鉄名古屋駅）方面から乗り入れていた時期もありました。

1956年（昭和31年）10月1日、田口鉄道は豊橋鉄道と合併し、これにより鳳来寺駅は豊橋鉄道田口線の駅となりました。

廃止とその後の経緯

豊橋鉄道との合併から8年後の1964年（昭和39年）、豊橋鉄道は田口線の赤字拡大を受け、路線の廃止を決定しました。そして、その4年後の1968年（昭和43年）8月31日限りで田口線全線が廃止され、翌9月1日からはバス輸送への転換が実施されました。これに伴い、鳳来寺駅も廃止されました。

2012年（平成24年）時点では、かつての鉄道路線に代わり、豊鉄バス田口新城線が新城駅近くの新城市民病院バス停から本長篠駅前を経由して田口まで運行されています。門谷地区においては、バスは愛知県道32号長篠東栄線上を走行しており、かつて駅があった字笠川には「鳳来寺」バス停が設けられています。

また、当駅で使用されていた腕木式信号機の一つは、愛知県春日井市にある中部大学に移設され、現在も保存されています。

構造

鳳来寺駅は、相対式ホーム2面2線に加え、貨物用の片面ホーム1線を有する駅でした。有人駅として運営され、1956年（昭和31年）の時点では駅長を含む4名の職員が配置されていました。

駅舎は、ローカル私鉄としては珍しい凝った造りでした。豊川稲荷本殿の築造に携わった宮大工、井桁屋によって手掛けられたとされ、和風と洋風が融合した寺院のような意匠の木造二階建て建築でした。戦前には、二階部分で食堂が営業されていた時期もありました。

利用状況

1957年度の記録によれば、この駅の年間乗車人員は20万4千人で、1日平均に換算すると558人でした。このうち、定期乗車券を利用する乗客が15万4千人と、全体の約4分の3を占めていました。この乗車人員は、田口線の全11駅の中で、本長篠駅に次いで2番目に多い数字でした。特に、鳳来寺高校の学生による通学利用が多く見られました。

同年度の貨物取扱量は、発送が49トン、到着が71トンでした。田口線には貨物を取り扱う駅が7駅ありましたが、鳳来寺駅での取扱量はその中で最も少ないものでした。

駅跡

鳳来寺駅の跡地は、現在の豊鉄バス「鳳来寺」バス停の周辺にあたります。特に、駅舎が建っていた場所は、愛知県道32号線と鳳来寺への参道である愛知県道441号線が交差する付近に位置していました。かつての線路敷きは、道路改修によって県道32号線の一部に取り込まれています。

駅舎は、駅の廃止後もすぐに解体されず、改修を経て1969年（昭和44年）10月10日からは「豊鉄ほうらいじ食堂」として営業を開始しました。その後、道路改修工事に伴ってこの食堂は撤去されましたが、隣接する土地に新たな食堂が建設され、営業が続けられました。しかし、この食堂も2004年（平成16年）に閉鎖され、2009年（平成21年）に取り壊されました。

隣の駅

豊橋鉄道
田口線

三河大草駅 - 鳳来寺駅 - 玖老勢駅

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