鳴尾

兵庫県西宮市鳴尾：歴史と自然が織りなす街

鳴尾は、兵庫県西宮市南東部に位置する、武庫川とその支流である枝川、申川の三角州上に広がる地域です。古くから松の美しい景勝地として知られており、謡曲『高砂』の「遠く鳴尾の沖過ぎて」の記述は、かつてこの地に立っていた一本松（現在では五代目）を指していると言われています。

地名の由来は、武庫川の河口付近の緩やかな傾斜地を示す「ナル」（「均（なら）す」と同根）と「尾」の組み合わせであるという説が有力です。

歴史の重層：平安時代から現代まで

平安時代後期には、鳴尾は景勝地として知られ、多くの歌に詠まれる歌枕となりました。また、塩湯の湯治場としても栄え、商業も盛んであったことが史料から伺えます。鎌倉時代には、神祇伯の西宮参拝の際に、鳴尾で衣冠を整えてから参拝する慣習があったとされ、宿場町としての発展がうかがえます。

南北朝時代には、大徳寺の末寺である長蘆寺が鳴尾に建立され、周辺の土豪や農民からの寄進を受け、大きな発展を遂げました。高利貸しも盛んで、地域経済の中心的な役割を果たしていた様子がうかがえます。

近世には、農業が盛んに行われ、スイカや綿花、明治時代以降はイチゴの栽培が有名でした。2010年には、鳴尾浜臨海公園のマスコットキャラクターとして「なるちゃん」が一般公募で決定されるなど、地域に愛される存在となっています。

江戸時代には、武庫川の洪水による被害に度々見舞われましたが、新田開発なども進められ、村域は徐々に拡大していきました。領主の変遷も複雑で、佐々氏、徳川幕府、篠山藩などが領有権を争いました。

明治時代以降は、阪神電鉄の開通や鳴尾百花園、鳴尾競馬場の開設などにより、発展を遂げました。大正時代には運動場やゴルフ場も建設され、レジャー施設も充実していきました。

昭和25年には、独立した市として十分な規模に達していましたが、戦後の財政状況悪化などを背景に、住民投票の結果、西宮市への合併が決まりました。この合併に際して、西宮市との間で「合併覚書」が交わされ、現在まで続く様々な約束事が生まれたのです。

地理的特徴：武庫川の三角州

鳴尾は、武庫川下流の砂礫地が緩やかに海へと広がる、なだらかな傾斜地です。かつては武庫川の支流であった枝川と申川が流れ、独特の地形を形成していました。現在、甲子園球場がある一帯は、かつては川だった場所で、埋め立てによって現在の姿になったのです。

これらの川は、武庫川の堤防改修や道路建設のための費用捻出のために埋め立てられ、現在の甲子園地区が形成されました。そのため、鳴尾地域は時代とともにその範囲を拡大してきたと言えるでしょう。

鳴尾地域の開発は、武庫川の流路変更や埋め立てによって大きく変化しており、その過程で多くの歴史的痕跡や自然の景観が形作られています。

現代の鳴尾：発展を続ける街

昭和26年の西宮市への合併後、鳴尾は住宅地や公共施設が充実した地域として発展を続けました。浜甲子園団地や武庫川団地など、大規模な住宅団地の建設も進み、現在では、多くの学校、図書館、商業施設などが整備されています。

交通面では、阪神電鉄の複数の駅があり、国道や高速道路も整備されており、アクセスも良好です。

鳴尾は、歴史と自然、そして現代的な都市機能が調和した、魅力的な地域と言えるでしょう。 古き良き伝統と新しい活力が共存する、独特の雰囲気を持つ街として、今後も発展を続けていくことが期待されます。

もう一度検索