鴉 (松本清張)

鴉

松本清張による短編小説『鴉』は、1962年1月に『週刊読売』に掲載され、1963年には講談社によって『松本清張短篇総集』に収録されました。さらに同年にはテレビドラマとしても放映され、作品のメッセージが多くの人々に感銘を与えました。

あらすじ

物語は、火星電器の販売部に勤務する浜島庄作を中心に展開します。彼は職場でも家庭でも居場所を見つけられず、無気力な日々を送っていました。しかし、労働組合の新しい委員長に選ばれることで、浜島の生活は一変します。労働組合が賃上げ交渉に本腰を入れ始め、浜島はこの機会を利用して会社に対する反撃を決意し、組合内の強硬派の一員となります。

浜島の変化に周囲は驚き、彼の心には一種の優越感が芽生えます。会社側が提示した賃上げ案を前に、組合内の雰囲気も緊張し始めます。その中で彼は、委員長の柳田に不信感を抱き始めます。柳田がポケットから取り出したマッチにはバーの名前が印刷されていたため、浜島は彼が裏取引を行っているのではないかと疑念を募らせます。

浜島はバーを探し出し、柳田と労務担当重役が会談していた事実を掴みます。裏切りを確信した浜島は、怒りと憎悪が心を支配し、職務をおろそかにするようになります。ついには倉庫が火災に見舞われ、浜島は責任を問われ、解雇されることに。解雇された浜島は、柳田を糾弾するため本社に乗り込むようになります。その絶叫は、次第に周囲の疑念を呼び起こし、柳田の立場を脅かす要因となっていきます。

柳田は浜島の解雇を受け、事態の悪化を危惧し、話し合いを試みる決意を固めます。ここでは、労働運動や人間関係の複雑さが深く掘り下げられており、裏切りや復讐心といったテーマが鮮明に描かれています。

エピソード

著者松本清張は、この作品を書くきっかけとした背景を語っています。彼は東京の西郊外を歩く中で、農家とその周囲に広がる防風林に犯罪の潜在的な存在を感じたと述べています。また、小説家の阿刀田高も「犯罪の動機」と「ミステリー的トリック」の融合に言及し、本作における主人公とカラスとの象徴的な関連性について分析しています。

テレビドラマ

1962年には、NHKによって2回にわたって『鴉』が放映され、松本清張の作品の一部としてその魅力を広めました。

キャストとスタッフ

ドラマのキャストには佐竹明夫、春日俊二、菅井きん、林寛が名を連ね、制作はNHKが担当しました。

このように『鴉』は、労働運動を背景にした人間ドラマとして評価され、またその叙述技法やキャラクターの深堀によって、多くの読者に深い印象を与えています。

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