鷲山寺

鷲山寺（じゅせんじ）は、千葉県茂原市の鷲巣に位置し、法華宗本門流に属する歴史ある大本山として知られています。広大な境内には、観妙院と妙本寺という二つの塔頭（たっちゅう）寺院を擁しており、宗派における重要な拠点の一つとなっています。

この寺院の創建は、鎌倉時代中期の1277年（建治3年）に遡ります。その礎を築いたのは、日蓮聖人の高弟である日弁上人です。創建に至る経緯には、この地の有力者であった小早川内記の存在が不可欠でした。小早川内記は、1264年（文永元年）に日蓮聖人その人に深く帰依したと伝えられています。日弁上人は、この小早川内記の手厚い外護、すなわち物質的・精神的な支援を受けて、この地に法華経の道場として鷲山寺を建立したのです。

しかし、鷲山寺の歴史は、相次ぐ災難との闘いの歴史でもありました。開山以来、なんと四度にもわたり、寺院全体が炎に包まれ、重要な堂宇を失うという試練に見舞われたのです。最初の記録に残る大規模な火災は、戦国時代の真っただ中である1535年（天文4年）に発生しました。この時、伽藍はほぼ完全に焼失したと伝えられています。その後、檀信徒や関係者の尽力により再建が図られましたが、再び江戸時代中期の1705年（宝永2年）にも猛火に襲われました。さらに、幕末の動乱期である1862年（文久2年）にも三度目の火災が発生し、その都度、苦難の再建が繰り返されました。

そして、近代に入ってからも災難は続きます。特に記憶に新しいのは、1954年（昭和29年）に発生した火災です。この時は、茂原市が主催した打ち上げ花火が原因で、寺院の要である本堂が焼失するという痛ましい出来事となりました。予期せぬ人為的な要因による被害は、寺院関係者や地域の人々に大きな衝撃を与えました。

これらの度重なる焼失を経て、現在の鷲山寺の伽藍は、本堂をはじめとして、庫裏、開山堂、鐘楼堂、水行堂、仁王門、香神堂、長屋門といった主要な建物を備えてはいるものの、多くが仮設の施設にとどまっているのが現状です。これは、幾度もの災禍からの恒久的な復興の道のりが、いまだ続いていることを物語っています。過去の厳しい歴史が、現在の寺院の姿に色濃く反映されていると言えるでしょう。

境内に存在する重要な文化財として、「元禄津波供養塔」があります。これは茂原市の指定有形文化財に登録されています。この供養塔は、今から300年以上前、1703年（元禄16年）に関東地方を襲った元禄大地震によって引き起こされた巨大な津波により犠牲となった人々の魂を供養するために建立されたものです。この大地震と津波は、房総半島沿岸部に甚大な被害をもたらし、多くの尊い命が失われました。この供養塔は、単に過去の悲劇を記憶するだけでなく、この地で暮らす人々が自然災害の脅威と共に生き、失われた命に寄り添い、安寧を祈る篤い信仰心の表れであり、地域社会が共有する歴史的な記憶と向き合うための大切な存在となっています。

現在、鷲山寺は法華宗本門流の大本山として、宗派の中心的な役割を担い、多くの末寺をまとめる立場にあります。現在の住職は、第102世にあたる佐藤日賢貫首が務められています。度重なる火災という大きな試練を乗り越えながらも、約750年前に日弁上人によって開かれたこの寺院は、地域における信仰の中心であり続け、法華経の教えを現代に伝えています。その歴史は、苦難からの復興という困難な道のりでありつつも、檀信徒の支えと不屈の信仰によって守り継がれてきた、再生の物語でもあるのです。将来に向けて、恒久的な伽藍の再建という課題も抱えながら、鷲山寺は今日もその歴史を刻み続けています。

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